地域銀行は自行の将来をどう展望するのか

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2016年12月06日

  • 菅谷 幸一

金融庁は、今年9月に公表した金融レポート(※1)の中で、地域銀行(地方銀行、第二地方銀行等)のビジネスモデルの持続可能性に対する厳しい見通しを示した。具体的には、地域銀行の顧客向けサービス業務(貸出・手数料ビジネス)の利益率(※2)について、2015年3月期においても4割の地域銀行がマイナスであるとした上で、2025年3月期には6割を超える地域銀行がマイナスになるという試算を示したのである(※3)。金融庁の試算では有価証券運用による収益等が勘案されていない点に留意する必要があるが、金融庁の強い危機意識を具体的に示したものとも捉えられる。

近年の地域銀行の決算状況を概観すると、信用コストの減少や有価証券運用・販売の好調さを背景に、最終利益が過去最高を更新するなど、堅調に推移してきた。ただし、本業の貸出業務に関しては、緩和的な金融環境の下、金利の低下・競争の激化・資金需要の伸び悩みを受けて、その収益性の低下に歯止めがかかっていない。こうした状況は、日銀によるマイナス金利政策の導入により一段と厳しさを増しており、直近の各行決算を見ても、負の影響が目立ち始めている。今後は、国内の高齢化・人口減少の影響が及ぶことは避けられないと思われ、今回の金融庁の試算結果は一つのイメージと言えよう。

地域銀行がこのような厳しい局面を打開していく上で、立ち返るべきは、今後も長きにわたって地域に必要とされる銀行とは何かを問うことであろう。そして、10年後、20年後の自行の目指すべき姿をできる限り具体的に定め、長期展望に立った地道な戦略展開を行う必要があると思われる。短期的・中期的な取組みは、その下に位置付けられることが望ましいだろう。そのためにも、営業基盤を置く地元経済の将来見通しを現実的なシナリオに基づき描く必要があるだろうし、地元企業が現在抱える課題やニーズに真摯に向き合うことが欠かせないと言える。先行きの不透明性が高まる現在だからこそ将来の行き先をどう決めるかが重要ではないだろうか。

(※1)金融庁「平成27事務年度 金融レポート」(平成28年9月)
(※2)顧客向けサービス業務利益率=対顧客業務純益(貸出金残高×預貸金利鞘+役務取引等利益-営業経費)÷預金(平残)
(※3)金融庁の試算については、高齢化・人口減少といった人口動態の将来予測を基に、銀行の預貸ギャップが拡大し、それに伴い預貸金利鞘が縮小するといった前提が置かれている。

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