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世界同時多発的スティープ化現象の持続性を問う

2016年11月02日

小林 俊介

9月21日、日銀は総括的検証の結果を受けて政策のレジームシフトを行い、イールドカーブ・コントロールを主軸とした長期金利ターゲットへと金融政策の舵を切った。振り返ると、2015年までの金融政策は円安による短期決戦でのデフレ脱却を目指してきたが、為替操作的な金融政策を今後も継続することは外交的に難しくなっている。結果としてデフレとの闘いは財政政策や成長戦略を主役に据えた中長期戦に移行しており、この中長期戦を戦う上で日銀は、低金利政策を継続しつつも、民間金融機関の信用創造機能を過度に損ねないよう配慮したということなのだろう。

こうした政策のレジームシフトの大部分は7月29日の日銀金融政策決定会合後に金融市場に織り込まれ、イールドカーブのスティープ化につながってきた。また、9月8日の会合以降、同様の問題を抱えるECBに対しても現行の金融政策レジームに対する限界論が高まり、長期金利の上昇は世界的な動きとして米国にまで波及した。さらに10月に入り、FRBイエレン議長が「High Pressure Economy(力強い総需要と労働市場のひっ迫を伴う高圧経済)」について、経済危機による損失の修復を図る方策として肯定的な見解を示したことも、こうした動きに拍車をかけている。日欧米の世界三極で同時多発的にスティープ化が進展したと言えよう。

しかしこの世界的な長期金利上昇の動きが持続性を伴う現象かと問われれば、大きな疑問の残るところだ。まず日銀について、金融機関に一定の配慮を示したとは言え、金融政策の主眼がデフレからの脱却に置かれている以上、むやみに長期金利を引き上げるような政策発動は期待しがたい。事実、日銀試算による「均衡イールドカーブ」によれば、(実質)長期金利の最適水準は既に実勢レートよりも低い位置にある。ECBについても事情は同様だろう。一部で懸念されてきたTaperingの可能性についても、10月20日の金融政策決定会合でひとまず否定された。

米国についても長期金利低下の蓋然性が高い。9月21日のFOMCで公表された、ボードメンバーによるFF金利の予想引き上げペースは今年1回、来年2回、2018-19年はいずれも3回ずつとなっている。しかしこの予想は些か野心的だ。米国経済は、短期の景気循環から判断して息切れの局面が近づいてきている。足下の米国経済を支えているのは家計消費だが、冴えない企業収益を前提とすれば先行きの賃金の伸びは減速に向かう公算が大きい。また、中長期的な景気循環から判断しても、過去6年に亘って設備投資の伸びが経済を牽引する資本ストックの蓄積局面にあったが、結果としてこれ以上の設備投資の拡大余地はあまり残されていない。米国経済は成熟化のフェーズに入っている。

さらにそもそもの問題として、世界経済を見渡せば先進国は労働人口の増加ペースの低下や金融危機後の生産性の伸びの鈍化、新興国は中国を中心とした過剰融資・過剰設備の問題などを背景として、潜在成長率の低下が続いている。こうした長期停滞の様相を呈する世界経済の状況を踏まえれば将来の自然利子率が上昇に向かうまでには相応の時間を要するだろう。従って世界的な長期金利の本格的な上昇が持続性を伴うまでには、やはり相応の時間を有すると目される。

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