トランスナショナル化強める大企業

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2016年10月13日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

財務省・日本銀行によると2015年末の対外直接投資残高は151兆6,150億円に達した。2005年末は46兆790億円だったから10年で3倍以上に増加した。対外直接投資残高は日本企業の外国でのプレゼンスを表す良い指標である。日本企業のグローバル化が加速している証左といえよう。

日本の大企業はトランスナショナル化(国を越えた企業化)がさらに進んでいく局面に入っている。国内市場の高い成長が見込めず、成長分野を外国に求めざるを得ないこと、輸出だけではなく、生産や開発といった部門も外国に立地していったほうが効率的であることが多くなっていること、外国への投資に必要な資金を多くの企業が蓄えており、外国企業を買収できる機会も増えてきていること、といった理由を挙げることができるだろう。日本の金融機関がそうした買収資金の需要に柔軟に対応すれば、さらに日本企業による海外企業の大型買収が成功するようになるかもしれない。

日本企業の外国への進出は、かつては、自ら、あるいは現地企業と合弁で販売拠点や生産拠点を設立するといった事例が多かったが、近年では外国企業を買収する例が増えており、それも大型のものが目立ってきた。企業買収が外国への直接投資の大きな部分を占めるようになってきている。

企業の本籍は日本であったとしても、その付加価値の過半が外国で生産されるケースも増えていくだろう。経営体制のあり方もトランスナショナル化を踏まえたものとならざるを得ない。資金調達や運用のあり方もグローバル化された財務によるものが求められるだろう。株主構成も日本という枠を超えてしまいつつある企業がいくつも出てきている。企業価値評価もそれに沿ったものに変化してきているといえるのかもしれない。

日本の政策課題としては、こうしたトランスナショナル化した企業の活動の果実をどのように国内へ還元させるのかという問題が出てくる。米国では課税の方法などによって米国のトランスナショナル企業の国内投資への資金還流を図る政策が取られたが必ずしも大きな成果を上げたとはいえなさそうである。まずは日本人が日本企業の株式を保有し、その利益配分を受けられるということがもっとも基本的な課題かもしれない。

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