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統計にバイアスは存在するのか

2016年09月12日

齋藤 勉

経済統計に関する議論が活発に行われている。家計調査に下方バイアスがあるのではないか、毎月勤労統計に断層があるのではないか、など個別の統計についての疑念に対して、総務省統計委員会は、統計の正確性を担保すべく新たなビッグデータの活用などを含めた検討を開始した。また、日本銀行は、現行の支出側、生産側GDP統計と、税務データを用いて推計した分配側GDPの数値に乖離が見られたというペーパーを公表し、これもまた広く議論を呼び起こしている。

こういった議論の背景には、経済成長率が思ったように高まらないことに対するフラストレーションが透けて見える。消費税率引き上げ後、個人消費が伸びてこない、経済成長率が高まらないのは、統計が間違っているだけで、本当は伸びているのだと思い込みたいのではないだろうか。もちろん、統計のバイアスによって過小推計されている可能性もある。しかし、少なくともGDP統計上の個人消費の推移については、統計によるバイアスの影響はそれほど大きくないのではないかと筆者は考えている。

図表1は、家計調査の1世帯当たり消費支出金額と、商業動態統計の小売業販売額の推移を並べてみたものである。2014年4月の消費税率引き上げ後、動きが乖離している。そして、家計調査が商業動態統計と比べて弱いというこの乖離を根拠として、家計調査に下方バイアスがあると主張されることも少なくない。そして、家計調査の下方バイアスが、GDP統計における個人消費の過小推計の原因であると言うのだ。

しかし、家計調査と商業動態統計は統計の集計範囲が違う。家計調査はサービス消費を含んでいる一方で、商業動態統計は小売業による「財」の販売額のみを対象としている。また、家計調査は振れが大きい統計であるため、GDPの推計に当たっては、一部の品目で家計消費状況調査という別の統計が用いられている。

そこで、商業動態統計調査と集計範囲を揃え、さらに購入頻度の少ない耐久財などの系列を家計消費状況調査によるものと入れ替えた、「家計消費指数(※1)」を比較してみよう。ここでは、家計消費状況調査でも振れが大きく、GDPの推計に用いられていない自動車を除いた系列を作成した。

図表2が家計消費指数(自動車を除く財)と自動車を除く商業動態統計小売業販売額を比較したものである。動きに多少の違いはあるが、おおむね連動した動きが見てとれる。家計調査の商業動態統計に対する下方バイアスは、適切な調整を施すことでその影響を除去できる。そして、GDPの推計に当たっては、必要な調整が行われているのである。

商業動態統計も、新しい業態を捕捉できていないなどの問題点が指摘されることはあるため、この結果だけで家計調査に問題が無いとは言いきれない。しかし、このような形で統計の正確性を少しずつ検証していくことが、統計利用者に求められる態度と言えるのではないだろうか。統計の前向きな活用に向けて、利用者としても冷静な分析を心がけたい。

図表:統計にバイアスは存在するのか

(※1)家計消費指数は、あまり注目度は高くないが総務省から公表されている数値である。本稿では、総務省公表の指数を一部調整して用いた。

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