電力自由化は消費者にとって絶好の学びのチャンス!

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2016年08月26日

  • 引頭 麻実

私たちの生活にとって欠かせない重要なライフラインである電力。2016年4月より小規模需要家、つまり、一般家庭やコンビニ、事務所など低圧ユーザー向けの小売が自由化された。電力の小売自由化は2000年以降3回実施され、総使用電力量の6割がすでに自由化されてきたが、今回の措置により、小売の全面自由化が実現した。

今回の自由化で何か変わるかと言えば、まずは消費者がどこから電力を購入するかについて自由に選べることになったことが大きい。これまでは地域独占による供給体制であったため、消費者には選択の余地はなかった。また、電力事業者にとっても従来は電力の販売のみしかできなかったが、他業種との提携によるポイントサービスや、通信やガスなど他の商材とのセット販売も可能となった。独占供給されてきた市場が開放され、競争が生じるとともに、民間の創意工夫により市場が活性化し、これまで想定されていなかったような新しいビジネスモデルも導入されるのではないかという期待がある。

資源エネルギー庁のウェブサイトによれば、8月9日現在で電力の小売を行うとして登録している事業者数は334社に達した。また、電力広域的運営推進機関によると7月31日時点でのスイッチング(他の電力事業者へ切り替えた契約)の数は147万3千件に上っている。4月からみると毎月20万件強のペースでスイッチングされている。

このように一見順調に見える自由化の滑り出しであるが、スマートメーターの取り付け遅れやシステムの不具合などで、購入先を切り替えた一部の消費者には電力料金の請求ができない事態が続いている。こうした事態が長く続くことは、消費者の不信を招くことにも繋がりかねない。できる限りの早い解決が望まれるところである。

実は筆者も物は試しと切り替えをしてみたのだが、先日、請求書が送られてきた。しかし、残念なことに、使用料以外の料金の内訳がよくわからない。具体的には再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)や燃料調整費といった既存の電力会社の請求書ではなじみのある明細項目が記載されていないのである。前述のように使用量が判明しない新規顧客を抱え、新電力もそれどころではないかもしれないが、一消費者としては是非、こうした情報も継続的に提供していただきたいと思う次第である。

例えば、再エネ賦課金は筆者の場合、今年3月で月額500円弱となり、単純に年換算すれば5,000円余りになっていた。今年度の賦課金単価は1kWhあたり2.25円と前年度比4割強の引き上げとなっている。大きな変化だけに、消費者にとっては重要な情報である。

エネルギーの自由化はこれに留まらない。来年4月からはガスの小口需要家の自由化も始まる。加えて、電力のネガワット(節電により余った電力)の取引も来年4月からの運用開始が予定されるなど、エネルギー市場の構造改革を推し進める政策メニューがさらに続く見通しである。

これまで消費者は行政と地域独占が許されていた電力事業者のもとで、ある意味で快適なサービスを享受してきた。しかし、日本のエネルギーを取り巻く環境はお世辞にも楽観はできない。消費者であっても1枚の請求書に書かれている情報から学べることは多い。得か損かという議論に陥りがちな自由化であるが、これを契機にもう一度エネルギーについて多面的な視点から、少し立ち止まって見てみることも、消費者にとって重要なことかもしれない。絶好の学びのチャンスが到来している。

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