出雲大社-鳥取砂丘間を走って、高速交通網への投資を思う

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2016年08月24日

  • 中里 幸聖

今年の夏休みは出雲大社と鳥取砂丘に行ってきた。ほぼ四半世紀前の大学時代にも行ったのだが、その時は出雲大社に到着した時は夕闇迫る時間帯で十分に参拝できなかったので、四半世紀前の宿題を片付けに行くといった意味合いもあった。

四半世紀前は、埼玉から車で上越道、北陸道と周り、山陰地域からは延々と国道9号を西進した。国道9号は片側1車線の2車線であり、鳥取県内は日本海沿い、島根県境辺りからは中海、宍道湖の南岸沿いを進み、出雲大社がある島根半島の付け根辺りから再び日本海沿いを走る。地図上では、鳥取砂丘から出雲大社まで160kmほどなので、4~5時間もあれば到着できると思っていたが、他に山陰を横断する主要道がなく、また米子や松江などの都市中心部も通過するので予想以上に時間がかかった。午前中に鳥取砂丘を出たのだが、冒頭に書いたように出雲大社到着は夕闇迫る時間帯となった。車窓から右側に見える中海や宍道湖が延々と続くように感じた記憶がある。

今夏は、出雲大社から鳥取砂丘にレンタカーで向かったが、ルート検索ソフトでは4時間半弱で到着できるとされ、実際にかかった時間はもっと短かったように思う。高速道路の山陰道が出雲から鳥取県の東西方向の中間地点位まで完成しており(※1)、元々の国道9号のバイパス機能を果たしていることで、四半世紀前よりもかなり早く移動できたのである。ちなみに、山陰道が従来の国道9号と合流した地点より少し進んだ道路脇で「山陰道の早期全面開通実現を」といった感じの立て看板を見かけた。

大学時代は埼玉から車で行ったが、今夏は新神戸までは新幹線で行った。新幹線も1992年に導入された「のぞみ」がかなりの頻度であるので、名古屋以西に行くには四半世紀前よりもかなり早くかつ便利になった。

今回の旅のように、目的地が複数の都市にまたがる時は、高速道路や新幹線といった高速交通網はとても便利である。料金の高低の問題を置いておけば、旅行者としては高速交通網が整備されていることは大変ありがたい。都市間の移動が頻繁であるビジネスマンや都市間物流を担う事業者にとっても整備進展は歓迎であろう。

しかし、高速交通網整備には巨額の資金が必要であり、建設後の運営費や維持費も考慮しなければならない。あまり使われない路線の整備は資金の無駄遣いであるという指摘は後を絶たない。実際、今回走った山陰道は片側1車線の2車線区間がほとんどで、追い越しできないのは困ったが、渋滞になる場面はなかった。片側2車線区間が増えれば利用者としては嬉しいが、山陰道を拡幅する優先順位はやはり低いと考えざるを得ない。

一方、主要な交通網の有無が都市の盛衰を左右する側面もある。藤井聡『「スーパー新幹線」が日本を救う』(文春新書、2016年)では明治期の人口ベスト15都市(ほとんどが港町)のうち新幹線が整備されていない都市は、政令指定都市になっていないとしている。「現代の大都市(政令指定都市)は全て、『新幹線』が通る都市圏に位置しているのである」(同書46頁)として、明治期にはベスト15に入らなかった浜松、静岡、岡山などが政令指定都市になっている、かつてベスト15に入っていた熊本が九州新幹線開業に伴い政令指定都市に認定(2012年)され大都市として復活した、としている(※2)

都市の盛衰を左右することを念頭に置けば、山陰新幹線や四国新幹線など、全国新幹線鉄道整備法(1970年)で定められた「基本計画路線」を整備することは、国土交通省「国土のグランドデザイン2050」(平成26年7月)で示された「コンパクト+ネットワーク」という基本コンセプトの実現を通じて地方創生、国土強靱化を図ることにもなろう。つまり21世紀後半を見据えた投資と言えるのではないだろうか。

新幹線と並んで高速道路の整備も引き続き必要であろうが、山陰道をもう少し伸ばすことが求められている事例のように、未完の部分を補足していくことが中心となるであろう。と同時に、既存のネットワークを有効活用し、維持更新投資を確実に実施していくことが将来にわたって求められる。

(※1)途中一般道路となっている部分があり、また鳥取県内区間では、NEXCO西日本の管轄とはなっていない税金による整備方式である「新直轄方式」等による区間があると思われ、正確には高速道路とは言えないかもしれない。しかし、運転者からすると山陰道という一体となった高速道路と感じられる。
(※2)なお、札幌市は「特殊な事情を持った一つの例外」としている。道州制という広いエリアを対象とした「道庁所在地」であることが影響している。

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