若者よ、選挙の次は財政を考えよう!

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2016年08月04日

  • 道盛 大志郎

2か月ほど前のコラムに、財務省が中高生向け「財政学習教材」を作成したことについて、分かりやすく作られていて、さらにそれが中高生向けだったことがとても良かったと記した。先日の参議院選挙を見て、その思いがますます強くなった。

今般の選挙は、憲法改正は別として、争点らしい争点もなかったが、初めて18歳選挙権が行使された選挙として、歴史に残るものだったと思う。あくまで抽出調査だが、18・19歳の投票率は、全世代の54.70%より10%ポイント近く低い45.45%だった。しかし、18歳に限ってみると、51.17%で、差は3.53%ポイントに縮まる。この数字は、過去5回の参議院選挙の20~24歳の投票率の31~34%と比較すると、20%ポイント近く高かったことになる。特に関東・関西圏が高く、神奈川、群馬、京都では、全世代を10%ポイント前後も上回って、60%超の投票率を記録した。東京、埼玉などもそれに次ぐ。

18歳の投票率が、19歳や過去の20~24歳と比較してとても高くなったのは、高校などで主権者教育を受ける機会が多かったからだ、とみられている。一方、19歳の投票率が低いのは、住民票が置かれた親元を離れた人がいたことも影響している、との指摘もある。投票率を見る限り、意識を高めるための投資は、それなりに有効であったことが示唆されているように思う。

筆者は、若い人たちにとって、財政問題こそ、興味を持つべき課題の筆頭格だと思う。若者こそが、おちおちしてはいられない状況にあるのだ。

人口減少・少子高齢化社会になって、以前の「胴上げ型」社会が、現在は「騎馬戦型」社会になり、将来は「肩車型」社会になる、とよくいわれる。50年前は、高齢者(65歳以上)1人を9.1人の働き盛り世代(20~64歳)が支えていたが、現在は、高齢者1人を働き盛り世代2.0人で支える状況となり、将来は、1人で1人を担ぐ肩車のような社会となる、という。

ただ、これだけでは問題の一部分でしかないと思う。ここで表されているのは、毎年のフローの問題であり、ストックの観点も考えないといけないからだ。既に我々は、過去の膨大な財政赤字の累積、その結果としての借金(1人当たり840万円(※1))を背負っている。働く人が減っていくと、1人の個人が背負う借金は、どんどん重くなってしまう。働き盛り人口は、今後50年で半分近くに減っていく、と予測されているのだ。

世代会計という考え方がある。一生の間に人々が政府から受ける受益(社会保障給付など)と、政府に支払う負担(税金など)を、世代別に計算してみようとする試みである。計算の仕方や含める受益・負担の範囲などによって計算結果は異なってくるが、いずれの計算も、どこかの世代より上は受益超過、下の若い世代は負担超過、そして、最も負担が重いのはこれから生まれてくる世代、という結果になっている。現在生きている世代の中での負担格差は5,000万円~7,000万円ほどあり、一番大きな負担を背負わされているのは生まれたばかりの世代だ。これから生まれてくる世代は、生まれたばかりの世代より、さらに3,000万円~6,000万円ほど重い負担となる。これから生まれてくる世代は、おぎゃあ、と生まれたときに、既に5,000万円とか、1億円の負担を背負っている、と極論することも可能なのだ。そして、放っておくと、こうした格差はもっと大きくなっていく。

若者が事態を放っておくと、私を含め年長の人たちは、生涯を終えて旅立っていく。旅立つ人たちが受益超過だったとすると、残された人たちはその分の負担を背負って生きていかなければならない。私などは、許されるならこのままにしておいた方が、損得勘定だけ考えれば、断然得になってしまうのだ。「若者よ、早く目覚めよ」と言いたくもなってくる。

低金利でいくらでも国債が発行できてしまうような金融環境のもと、中長期の財政問題を考える気運は、どんどん先延ばしになっていく。そんな現状にちょうど良い資料が出来上がったと思う。ぜひ皆さんも一読してみてはどうだろうか。

(※1)国および地方の合計。「財政学習教材」では、1人当たり664万円(対象は国債のみ)としている。

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