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消費増税の再延期を受けて家計消費は回復に向かうのか

2016年08月01日

小林 俊介

去る6月、8%から10%への消費税率の引き上げが再度延期された。以前のコラム(※1)で指摘した通り、消費増税の影響は「代替効果」(増税前の駆け込みとその反動)を発生させるのみならず、実質所得の低下を通じた「所得効果」により恒久的に消費の減衰を招く。この意味において、消費増税の再延期は、家計消費に対して1つの追い風となっているように見える。特に「消費増税で家計心理が折れてしまった」ことを消費減退の要因とみる向きにとっては、諸手を挙げて歓迎すべき動きだろう。しかし現実はそれほど単純ではないかもしれない。

まず、多くのエコノミストの想定を遥かに下回った消費の背景にある四つの要因を整理しよう。第一は、「所得」の伸び悩みだ。前回のコラム(※2)で指摘した通り、賃金の伸びは期待されてきたほどではなかった。しかし「勤労者所得」以上に伸び悩んだのは、「非勤労者所得」‐年金受給額の伸び悩みだ。「特例水準の解消(※3)」により2013-2015年度の年金受給額は抑制され、こうした要因から勤労者所得と非勤労者所得を合算した日本全体の「所得」総額は伸び悩んだ。

第二の要因が、「可処分」所得の伸び悩みだ。各種保険料率の上昇に加え、昨年度から所得税の最高税率が引き上げられたことにより、いわば「給料の額面が上がっても手取りは増えない」状況が発生している。結果として日本全体の「可処分」所得総額は、アベノミクス開始以降緩やかな回復傾向にあるものの、増勢は極めて緩やかなペースにとどまっている。

第三の要因が「実質」可処分所得の伸び悩みだ。詳細な説明は前述のコラムに譲るが、この点において消費増税の影響が大きかったことは異論の少ないところであろう。加えて、円安に伴う輸入物価の上昇が、(円安の恩恵を受けた)所得の上昇効果を一部相殺した可能性もある(※4)

第四の要因が、需要の先食いからの反動という特殊要因(※5)だ。先食いと言えば2014年4月の消費増税前の駆け込み需要が思い起こされるところである。しかし2014年の消費増税よりも遥か以前の2009年以降、エコカー補助金や家電エコポイント制度によって約5年間にわたり耐久財消費の先食いが発生していた。この効果が一気に剥落したことで耐久財消費が猛烈に落ち込んだ。

さて、こうした現状認識に立って先行きの家計消費を展望しよう。これら四つの要因のうち、第一、第三の要因は少なくとも今後、家計消費回復の足取りを重くする主体ではなくなってくる可能性が高い。年金受給額の引き下げは一旦終了した。また、消費増税の延期や物価上昇率の低下により、実質可処分所得の抑制効果は縮小している。第四の要因についても、悪化のモメンタムは一服に向かうだろう。需要の先食いが発生し始めた2009年から7年を経て耐久財の買い替えサイクルが好転している。加えて、過去2年間の猛烈な落ち込みを経て耐久財消費の水準も過去のトレンドに概ね回帰した。

問題は第二の要因だ。保険料率の引き上げは、少子高齢化に伴う社会保障費を賄うために恒常的に実施されてきた措置である。従って何らかの手段により社会保障費を縮小する、ないしは別の手段で財源を確保することができなければ、保険料率は上昇を続け、とりわけ勤労者の可処分所得は抑制され続けることになる。ここで重要なポイントは、消費税は社会保障財源に充当される目的税であるという事実だ。①財政規律の放棄、②社会保障費の削減、③保険料率の引き上げ速度の加速、これらを回避するために検討されてきたのが消費税率の引き上げである。従って消費増税の延期に伴い、増大する社会保障費は、上記①②③のいずれかで賄われることになる。従来通り③のウェイトが高くなるのであれば、勤労者世帯の可処分所得は抑制され、結果的に消費を抑制する要因となるだろう。

最後に蛇足ながら付け加えておくと、①は将来世代、②は老齢世代、③は現役世代に負担を強いる政策であり、本質的な問題はコストの付け替えである。この3つの選択肢からいずれかを選ばなければならない中、より成熟した議論と、賢明な判断が行われることを願ってやまない。

(※1)反動減にとどまらない消費増税の影響は、なぜ「想定外」だったのか
(※2)なぜ賃金は伸び悩むのか、たった一つのシンプルな理由
(※3)「特例水準の解消による年金額の改定について」国家公務員共済組合連合会
(※4)円安効果再考-善悪論の相克を超えて
(※5)日本経済見通し:何故、個人消費は低迷しているのか?

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