○か、×か、それが問題だ。

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2016年07月20日

  • 秋屋 知則

To be, or not to be, — that is the question.シェイクスピア没後400年となる今年6月、英国でEUに残るか否かの国民投票が行われた。有権者は英国とEUの関係やメリット・デメリットをどれぐらい理解していただろうか。当初から国論を二分する接戦が伝えられていたが、結果は筆者にとって予想外の「離脱」派の勝利だった。結果発表の直前後から為替や株価が大きく動いたように結論は出たものの、英国・欧州の問題にとどまらず、世界の経済社会の将来に不透明さが増したようにしか思われない。

さて、さまざまな現地レポートの中で今回の投票は、賛成か反対かだけを問うシンプルなものだという報道があった。確かに投票用紙の写真を見ると両派のキャンペーンですっかりおなじみとなった「Remain(残留)…」と「Leave(離脱)…」と大きく2つが印刷されており、有権者は、支持する意見の後ろにある四角い欄にマークをする方式だった。ただ、驚いたのは注意して読むと、1回だけ“×”を記入して投票せよと書いてある。つまり自分が選ぶ側にバツ印(原文cross)を書くということだ。

同じやり方だと、日本人は、×に単なるチェックの印という以上に良し悪しの悪いという評価を感じてしまうから少々、厄介だ。例えば憲法を改正してもよいかと問われて賛成に×印をつける記号式にしたら、少なからず混乱することだろう。

実際の日本国憲法の改正手続に関する法律では「投票人は、投票所において、憲法改正案に対し賛成するときは投票用紙に印刷された賛成の文字を囲んで〇の記号を自書し、憲法改正案に対し反対するときは投票用紙に印刷された反対の文字を囲んで〇の記号を自書し、これを投票箱に入れなければならない。」と原則を決めてある。ただし、反対の文字を×や二重線その他の記号で抹消した投票も賛成として有効にするなど(賛成否定→反対の逆パターンも含めて)投票人の意思が明白ならば、その投票を有効に扱うようにしてある。

一方、日本でも国民が×を書いて可否判断をすることが原則のケースもある。最高裁裁判官に対する国民審査がそれだ。こちらは、同じく法律(※1)で投票の方式として「審査人は、投票所において、罷免を可とする裁判官については、投票用紙の当該裁判官に対する記載欄に自ら×の記号を記載し、罷免を可としない裁判官については、投票用紙の当該裁判官に対する記載欄に何等の記載をしないで、これを投票箱に入れなければならない。」と定められている。

不勉強のそしりを免れないが、個別の最高裁裁判官について良し悪しを判断する知識や情報をおよそ持ち合わせていないし、普段、知ろうとも努力していない(また、この方式が裁判官の審査という目的においてどれだけ実効性があるかも正直、分からない)。しかし、国家の重要事案について良し悪しを国民が直接判断するための投票となれば、話は別だ。日本では前例がないだけに制度として無効票や勘違いを減らすにはどうすべきかは重要だ。ただ、何より、投票所へ行った時、自信を持って○か、×かを選ぶことができる状況にあることが肝要だと思う。

(※1)最高裁判所裁判官国民審査法

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