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人の心でお金を動かせ

2016年07月19日

経営コンサルティング第二部 主席コンサルタント 林 正浩

日銀のマイナス金利政策によりメガバンクをはじめとした都市銀行の長期貸出平均金利は1%を割り込む水準となり、住宅ローンの借り換えも相次いでいる。国債利回りが大きく低下するなど投資環境の悪化を受け、MMFは確定拠出年金向けの一部を除いてほぼ姿を消した。プライマリー・ディーラーとしての資格を国に返還する大手都市銀行も出てきた。

マイナス金利の時代だからこそというべきか、映画「殿、利息でござる!」(中村義洋監督・鈴木謙一脚本)は金利とは、そして金融とは何かをあらためて考えさせられる傑作だ。この作品、阿部サダヲ主演の「お笑い満載の金融コメディー」では決してない。金融機関の新入社員研修の教材に使いたいくらいの出来栄えなのである。

舞台は江戸中期の仙台藩吉岡宿。さびれた宿場町である。旅人は減少し商売は不振を極め、夜逃げや破産が相次いでいた。それだけではない。お上の物資を宿場から宿場へと運ぶ「伝馬役」の経費が重税にあえぐ庶民にのしかかる。街を救う方法はないものか。この宿場町を復興させるために阿部演じる穀田屋十三郎が編み出す秘策はこうだ。

「財政がひっ迫する藩にお金を貸し付けて、そこから利息をもらい、宿場に還元しよう」

宿場の立て直しをお上に金を貸すことで成し遂げる。この逆転の発想がまず見事だ。そして、十三郎を中心に吉岡宿一丸となり「慎みの掟」を自分たちに課し、私利私欲に走ることなく金策に取り組む。結果、財政危機に陥っていた仙台藩に1,000両という大金を貸し付け、その利息で町は救われたのである。お金に翻弄される人間模様が醜いオチを演出する作品が多い中で、この「殿、利息でござる!」はどこまでもすがすがしい。

250年の昔に存在した「善意の投資ファンドの物語」といったところだろうか。通貨制度さえ確立していたとは言い難い江戸明和年間に金融資本主義が既に根付いていた証しともいえよう。また、磯田道史の「無私の日本人」(文藝春秋、2012年)が原作であるだけにそのストーリーは「皆のためにひと肌脱ぐ」日本的なカッコよさ全開である。別の角度から見ると地方再生の物語としても興味深い。

なにより、この作品を通じて「お金が人を動かすのではなく、人の心がお金を動かす」という当たり前のことに気付かされる。

翻って、庶民のお金をお上が借りる図式が定着して久しい平成日本はどうか。ここでヘリコプターマネーやG7版「三本の矢」の是非を論じるつもりはない。やぼと言うものだ。だが利息を頼りにしている年金生活者の抱く漠たる不安にも思いをはせたいものである。国民の嘆息が聞こえるだろうか。預金者が被害をこうむる残酷な仕組みが長続きするとは到底思えないのである。

(別の意味で、だが)「殿、利息でござる!」と、お上に対して庶民の声なき声を届けたい。

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林 正浩

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