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Brexitが変えるEU

2016年07月14日

金融調査部 金融調査部長 児玉 卓

英国の調査機関YouGovが6月30日から7月5日にかけて、英国を含む欧州各国においてBrexitを受けた意識調査を行っている(※1)。その中に、「英国の後を追い、他にEUを離脱する国が今後出てくると思うか」という設問があるが、ほとんどの国では「そう思う」という回答が「思わない」という回答を上回っている。例えば、ドイツでは「そう思う」50%、「思わない」36%、「分からない」13%、フランスでは同じ順に58%、29%、13%といった具合である。ただし、各国の回答者が考える「離脱しそうな国」は自国ではない。ドイツでも、フランスでも、「離脱しそうな国」の筆頭に挙げられているのはギリシャであり、オランダがそれに続く。例外がデンマークであり、同国の場合は自国を「離脱しそうな国」とみなす回答が多い。デンマークは1992年にマーストリヒト条約批准を否決、2000年にユーロ加盟を否決、更に昨年12月にも司法・内政分野のEUとの協力拡大を否決するなど、国民投票を通じてEUの統合プロジェクトに距離を置いてきた歴史があり、似たような立ち位置にあった英国が離脱を決めた以上、自国が同じ道を選んでも不思議ではないと考える層が一定程度いるということだろう。

もっとも、そのデンマークの回答者も、「あなたの国がEU残留・離脱を問う国民投票を行うとすれば、どちらに投票するか」という問いに対しては、58%が残留と答えている(離脱29%、棄権1%、分からない12%)。Brexitが離脱ドミノのきっかけになりつつあるといった空気は、この調査からは漂ってこない。最近はFrexit(フランスのEU離脱)という造語もしばしば目にするようになっているが、フランスの回答者も国民投票実施に関するアンケートについては残留支持が離脱支持を上回っている(残留44%、離脱33%、棄権9%、分からない14%)。

もちろん、こうした調査があまり当てにならないことは英国の国民投票が改めて示したとおりである。サンプルの少なさや偏りなどの問題は不可避であるし、時間とともに、人々の意識が移ろいもする。いずれにせよ、そうした人々の意識を左右する上で、今後のBrexitを巡る英国とEUの交渉プロセスがカギを握っていることは間違いないように思える。

同じ、YouGovの調査に「英国に対し今後のEUとの関係において寛大に扱うべきか厳しく臨むべきか」という設問があるが、回答は総じて英国に不利である。英国自身と(いずれは自分もという意識がある?)デンマークは「寛大に」が過半であるが、スウェーデン、フィンランド、フランス、ドイツは「厳しく」が「寛大に」を上回っている。現在の各国の国民感情としては致し方ないことであろうが、EU政治がこうした「民意」を尊重すると、恐らく自ら墓穴を掘ることになる。

Brexit騒ぎについては、米国での「トランプ現象」同様に、ポピュリズム席巻の一断面としての評価を与えられることが少なくない。確かに、ポピュリズムを「それに裏があることを隠して、うまい儲け話を吹聴すること」とみなせば、国民投票前の離脱派の宣伝文句などはポピュリズム以外の何物でもなかった。同様の言説を弄する政党が大陸欧州に少なからず存在することも否定されない。しかし英国を含め、近年の欧州の政治的不安定性の根幹にあるのは、ポピュリズムというよりはナショナリズムであろう。ユーロ圏危機に最終的な解決の目途が立たず、難民の急増といった問題が深刻化する中で、EUの共通利益と構成国それぞれの国益との相克が先鋭化し、それが各国国民に意識されるケースが増えている。ポピュリストがそれに乗っかり、人々のナショナリズムを刺激することで人気取りを狙うという構図である。それは言うまでもなく、英国特有の現象ではない。

こうした構図がある中で、EUが強面(こわもて)で英国との離脱交渉に臨むことは果たして賢明だろうか。メルケル独首相は英国に関し、「いいとこ取りは許されない」と発言したと伝えられているが、EUは「財政緊縮は嫌だがユーロ圏離脱も嫌だ」、「難民の受け入れは嫌だがEUからの補助金はいただく」といった「いいとこ取り」志向に満ちているのだ。もちろん、これらすべてを認めればいいということではない。しかし、構成国のナショナリズムが高揚するに任せていては、離脱ドミノのリスクは高まるばかりである。恐らく英国が主張してきたように、EUは変わらなければならないということであろう。英国との交渉に強面で臨み、他の構成国に離脱のコストを見せつけるのではなく、EUに留まることの利益を主張するために、EU自身が改革を進めることが求められている。Brexitがそうした変化のきっかけになり、むしろEU瓦解の防波堤の役割を果たすとみるのは、いささか楽観的に過ぎるだろうか。

(※1)https://yougov.co.uk/news/2016/07/08/european-voters-reject-generous-deal/

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児玉 卓

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金融調査部長 児玉 卓