履歴効果と潜在成長率
2016年06月08日
アベノミクスが期待通りの効果をもたらしていないとの批判は絶えない。賃金は伸び悩み、消費者物価上昇率は再びマイナスとなっている。財政・金融政策で景気を浮揚させ、その間に成長戦略の実施で潜在成長率の引き上げを図るというアベノミクスの狙いは、まだ実績が不十分との論調が目立つ。しかし、日本経済の停滞の原因を全てアベノミクスの失敗に帰するのは酷というものではないか。
23カ国で過去50年間に発生した122回の景気後退の事例を対象とした研究(※1)によると、約3分の2の事例で、景気回復後の産出量が後退前の潜在産出量を下回り、かつそれらの半分の事例で、回復後の経済成長率が後退前に計測された潜在成長率を下回るという。これは景気後退の負の影響が回復後も持続し、潜在成長率そのものを恒久的に低下させるという「履歴効果(hysteresis)」と呼ばれる現象である。
その背景として様々な要因が指摘されているが、例えば、景気後退によって労働市場では失業期間が長期化、あるいは完全に労働市場から離脱する者が増加する。企業は先行きの見通しを慎重化させ、設備投資と研究開発投資を抑制するため生産性が低下する。こうして景気後退が企業の投資行動と雇用創出のメカニズムを変化させ、潜在成長率を低下させる可能性がある。あるいは金融危機が発生した場合、短期的に金融仲介機能が劣化するだけでなく、銀行規制や銀行行動の変化が長期的にも金融仲介機能を低下させ、潜在成長率に影響を与える可能性などが指摘されている。
日本だけでなく米国も潜在成長率の低下に直面している。リーマン・ショックによる世界金融危機の影響はやはり大きかったといわざるを得ない。打開策は財政・金融政策による需要側への刺激か、または構造改革による供給側の変化かを巡って揺れ動くのが常だが、結局のところ両方からの施策を着実に実施する以外にないだろう。
(※1)Olivier Blanchard, Eugenio Cerutti, and Lawrence Summers(November 2015),“Inflation and Activity – Two Explorations and their Monetary Policy Implications”
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