不思議の国・日本

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2016年06月02日

  • 木村 浩一

欧米諸国では、経済のグローバル化に伴う中間層の没落に加え、リーマン・ショック後の経済停滞の長期化により、失業率が高止まりし、家計の収入が低迷している。そういった経済的不満やフラストレーションのはけ口の対象として対外的批判の高まりや難民排斥運動が起こり、ナショナリズムが力を増している。ハンガリー、フランス、ポーランド、オーストリアに加え、経済が好調なドイツでさえナショナリズム勢力が台頭している。アメリカでもトランプ共和党大統領候補が、「アメリカ・ファースト」のスローガンで予想外の支持を獲得している。EUからの離脱を問う国民投票がこの6月に行われるイギリスも、その背景には同じ潮流があるのだろう。欧米諸国では、国民は、経済的不満を投票行動やデモなどにより、政治的に強く主張している。

そういった世界の潮流の中で、それにつけても思うのは、「不思議の国・日本」である。ヘイトスピーチなど一部に排外的動きはあるものの、戦後一貫して平和を希求する国民の姿勢に加え、東日本大震災時におけるアメリカ、台湾などの諸外国による支援に対する感謝の思いもあり、最近はおもてなしの心による外国人に対する融和姿勢が強まっている気がする(日本は有史以来、大規模な自然災害に見舞われ続け、将来も大災害を避けることはできない。また、人口減少により国内経済規模の縮小も不可避である。海外諸国との協調や日本を海外に開放していくことが、日本にとって最善の道であるとの認識が強まっているのではないかと思う)。

現実に、政治レベルでナショナリズムを殊更に主張する政党はないし、国政選挙でナショナリズムや移民が争点になることはない。確かに日本は事実上、難民や移民をほとんど受け入れていないし、統計上は完全雇用に近い状況にあり、欧米諸国と異なりナショナリズムの温床になるものは乏しい。

といって国民が経済的不満を持っていないというわけではなく、少子高齢化や人口減少による社会保障制度の将来への不安がベースとしてある上に、雇用の非正規化や低金利などによる所得の減少により、消費は低迷し経済成長は停滞している。

日本人は我慢強い国民である。平和で安定した国家を構築したものの、社会の中で協調性を重視して生きてきた日本人は、多少のことは、みんなも同じ境遇にいるのだから、みんな我慢しているのだから、と自己主張を抑えてしまう傾向がある。

しかし、潜在成長率が0%近辺にあるため財政政策の需要創出効果は薄く、金融政策も限界に近付いてきている。抜本的な構造改革の実施、財政改革、社会保障制度改革が避けて通れないことは明らかだ。ナショナリズムは困りものだが、所得の向上や将来への安心、子供たちにつけを残さないために、日本人は政治に対し変革をもっと強く主張してもいいのではないだろうか。

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