検証が求められる異次元金融緩和の効果と副作用

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2016年05月30日

  • 菅谷 幸一

日銀のマイナス金利政策の導入決定から4ヵ月が経過した。マイナス金利政策による効果を現時点で評価することは難しいが、その導入によって市中金利の低下ペースが加速するなどの変化が確認される。たとえば、国債利回りを見ると、導入決定後、急速に低下し、現在では短期のみならず長期ゾーンまでマイナス金利が定着しつつあり、イールドカーブのフラット化が進んでいる。社債やCP(コマーシャルペーパー)の利回りを見ても、過去最低を更新しており、CPについてはマイナス金利での発行も見られる。さらに、金融機関の貸出金利は、これまでも低下傾向が続いてきたが、市中金利低下の影響を受けて、一段と引き下げられる動きが広がっている。このように、マイナス金利政策の導入後、一層の金利低下が確認されるが、今後、企業や家計の資金需要の喚起にどの程度の効果を発揮していくのかが金融機関にとって重要となる。

金融機関は、日銀の異次元金融緩和に伴う金利低下を受けて、現在も預貸金利鞘の縮小による国内貸出の収益性低下に直面しているが、近年、最終利益は増益基調にあった。これは、アベノミクスの恩恵としての企業業績の回復を背景に信用コストが減少したことや、株価上昇等を受けた有価証券関連収益や金融商品販売の手数料が増加したこと、さらに国際業務収益が好調であったことが主な要因である。しかし、中国を含む新興国・資源国をはじめ、海外経済の先行きに不透明感が増しており、国際金融資本市場の不安定な動きが続くなど、金融機関の収益環境は厳しい局面にさしかかっている。こうした状況の中、マイナス金利政策が導入されたことで、金融機関の収益力に対する下押し圧力はより一層強まったと指摘される。金融機関の財務健全性は総じて高く、収益力の悪化が直ちに経営を揺るがすような事態に陥ることは今のところ想定されないが、異次元金融緩和が長引くほど、こうした懸念が高まる可能性があるだろう。

日銀が目指す物価上昇率2%は、もともとは2年程度の期間で実現を図るはずだった。しかし、異次元金融緩和の開始からすでに3年が経過した今も、実現の見通しは立ったと言えない状況にある。円高の是正や資産価格の上昇といった政策効果が表れたと言える一方で、異次元金融緩和が3年も続いたことにより、金融機関の収益力低下などの問題が副作用として表れてきたと考えられる。マイナス金利政策の導入によって、こうした副作用の芽はなおさらに大きくなるであろう。日銀は、今後、最適な政策運営を果たしていくためにも、効果と副作用を入念に検証・評価することが求められるのではないだろうか。

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