首都圏の介護人口急増問題と自治体連携による日本版CCRC構想の進展

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2016年05月17日

  • 大村 岳雄

首都圏を中心に介護問題は深刻化している。日本の65歳以上の高齢者人口は、2015年で3395万人(割合:26.8%)だが、2025年には3657万人(同30.3%)と高齢者人口の割合は3割を超える。東京都の場合、特別養護老人ホーム(以下、特養)の定員数3.8万人に対して、特養待機者数は4.3万人に上る(2014年)。これを関東一都六県でみると、特養定員数13.6万人に対して、待機者数は13.5万人となっている。明らかに大幅な施設不足である。

関東一都六県の特別養護老人ホームの定員数と待機者数

政策では、2025年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進している。

しかし、東京都内における高齢者施設の場合は、他地域と異なり、施設用の土地取得費用が高額であること、また遊休地も多くないため、整備に限界がある。

そこで、政府は日本版CCRC(Continuing Care Retirement Community)構想を提唱している。CCRC自体は、米国で普及している高齢者コミュニティーでこれを参考に「東京圏をはじめとする高齢者が、自らの希望に応じて地方に移り住み、地域社会において健康でアクティブな生活を送るとともに、医療介護が必要な時には継続的なケアを受けることができるような地域づくり」を目指すものであるとしている。そしてこの構想には、高齢者の希望の実現、地方へのひとの流れの推進、東京圏の高齢化問題への対応、の3つの意義があるとしている。

従前の高齢者施設と日本版CCRCとの基本的な違いは別表の通りである。大きく異なるのは、CCRCでは居住者(高齢者)が健康な時に主体的にこの構想への参画を求められている点である。

従来の高齢者施設等と日本版CCRCの違い

現在、23区内では、杉並区と豊島区の2区が自治体連携による高齢者施設の整備に動き出している。

杉並区は、虚弱児童等の転地療養施設を南伊豆町に保有していたが、その施設が当初の役割を終えたため、自治体連携による特別養護老人ホームの設立が検討されるに至った。その後、住民アンケート、移住説明会や現地見学会を実施して準備を進めている。

豊島区は、姉妹都市である埼玉県秩父市に特別養護老人ホームの整備を打診し、秩父市も受入に理解を示した。さらに、有識者検討会議を設置し、5回の契合を重ね調査報告書をまとめた。その後、区民への意識調査を行ったところ、20%が秩父市への移住に前向きな回答を示した。

それぞれ、連携に至った経緯は異なるが首都圏における介護人口問題はますます深刻化することが予想されている。このような自治体連携の動きが、さらに広まることを期待したい。

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