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500ユーロ紙幣をめぐる論争から透けるドイツのECB不信

2016年05月12日

経済調査部 経済調査部長 山崎 加津子

ECBは5月4日の理事会で、最高額紙幣である500ユーロ紙幣の発行を2018年末ごろに終了することを決定した。流通している500ユーロ紙幣は法定通貨にとどまり、支払手段や価値貯蔵手段としての機能を維持するが、段階的に回収されることになる。500ユーロ紙幣の発行停止が決定されたのは、この高額紙幣(1ユーロ=125円で換算すると62,500円)が日常的な買い物にはほとんど利用されていないのに、流通残高が約6億枚と多く、武器などの「闇取引」、あるいは脱税目的の資産保有といった犯罪絡みの利用が少なくないと懸念されているためである。500ユーロ紙幣廃止の議論は以前から存在したが、欧州を拠点とする無差別テロや、パナマ文書で改めて注目を浴びている高額所得者や大企業による脱税問題などが、今回のECBの決定を後押しした。

ところが、ドイツではこの500ユーロ紙幣廃止の提案にさまざまな批判が噴出した。中央銀行であるドイツ連銀は、高額紙幣を廃止してもマネーロンダリングなどの犯罪が減少する保証はなく、この提案には別の隠された目的があるのではないかとの懸念を示した。その目的とは、500ユーロ紙幣廃止を「現金廃止」の第一歩にすることである。支払手段としてクレジットカード、デビットカード、プリペイドカード、電子マネーなど多様な手段が普及している現在、現金をまったく使わなくても生活できる環境が整いつつある。スウェーデンやデンマークなどこれら代替支払手段が普及している国々では、現金の発行や流通にかかるコストを鑑み、現金廃止が議論されている。これに対してドイツは欧州の中でも現金での決済がまだ多く、現金廃止に否定的な意見が多いようである。現金がなくなれば消費行動がガラス張りにされてしまう、銀行預金を現金化することができなくなりマイナス金利を免れることもできなくなるため、これは銀行システムを守るために預金者に新たな負担を強いる措置だといった批判が聞かれた。

実際には、5月4日のECB理事会で、500ユーロ紙幣の発行終了はデザインを刷新(※1)した100ユーロ紙幣と200ユーロ紙幣の導入と同時に実施することが決定された。つまり、500ユーロ紙幣はなくなるものの、それ以外の紙幣の発行は継続されるということで、「現金廃止への第一歩」との批判を封じる決定である。ドイツ連銀からもこの点を評価するコメントが出された。とはいえ、500ユーロ紙幣廃止をめぐるドイツ国内の議論からは、ECBの政策に対するドイツの不信感が透けて見える。もともと、1999年にユーロ圏の中央銀行として業務を開始したECBはドイツ連銀を手本として設立されたはずであったが、ドイツ1国の金融政策を担当するドイツ連銀と、19カ国の金融政策を担当するECBとでは政策手法が異なってくるのは当然である。ドイツでECBへの不信感が高まった大きな契機は、ユーロ圏債務危機に直面してECBが加盟国の国債購入に道を開いたことである。その後、デフレ対策として非伝統的な金融緩和策を導入し、マイナス金利を採用したことでこの不信感はさらに高まってしまっている。最近では「ドラギ総裁の後任はドイツ人にして、金融政策を正常化するべき」といった発言がドイツの政治家から飛び出した。これはドイツが強力に働きかけてEU条約に明記した「中央銀行の独立性」を損なう発言で、さすがにドイツ連銀を筆頭にドイツ国内から大いに批判されたが、ユーロ圏で最大の経済規模を有するドイツのECB不信は厄介な問題である。

(※1)偽造防止を目的にECBはユーロ紙幣のデザイン刷新に着手しており、5ユーロ、10ユーロ、20ユーロの各紙幣がすでに新デザインとなっている。

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