2016年04月26日
先週金曜日(2016年4月22日)、我が国の政府代表は、COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された「パリ協定」の署名式典に出席した。また、今国会で地球温暖化対策推進法の改正案が、G7伊勢志摩サミット(5月26日、27日)までに成立すれば、国内においても進捗していることがアピールできる。
パリ協定を受けた政府の取組みが国内外で進む一方、当事者である国民(家庭)の関心はそれほど高くないと感じることがある。2030年度に家庭部門に課せられている、二酸化炭素(CO2)削減目標(2013年度比39%減(※1))を知っている人は少ないだろう。14年も先のことなので実感が持てないのが正直なところだろうが、数値だけをみると大変、厳しいものである。
家庭の関心が高まらない理由の一つとして、省エネ文化が深く根付いていることが挙げられる。その上、最近の相次ぐ気象災害や東日本大震災による電力危機等を経験したことで、節電も家庭生活に定着している。家庭の最終エネルギー消費量は年々増加していたが、2005年度にはピークアウトしたとみられ、最近10年で約12%減少した(図の折れ線)。この傾向が続けば、同消費量は2030年度には40百万kL(原油換算)を下回ることになり、削減目標で想定している38百万kL(※2)の水準に近づく。一方、CO2排出量(図の棒)の方は10年で約7%増えて192百万tとなった。家庭部門の排出量は景気の影響を受けにくいことから、東日本大震災(2011年3月)後の排出量の増加は、原発停止と火力発電の焚きましだと分析されている。
家庭部門が今後も省エネ・節電を維持するならば、問題解決の矛先は電源構成の低炭素化に向くことになる。今春から家庭での電力小売自由化が始まり、電気を選べるようになった。災害時に強いとされる分散型電源として太陽光や風力発電を選択する家庭が増えれば、発電事業者の電源構成に影響を与え、排出量の更なる削減につながる可能性もある。
以上のことから、日本の家庭部門の排出削減は、パリ協定のために取り組むというよりは、非資源国で培われた省エネ文化に、自然災害を教訓にした節電が加わった“結果”として得られるものと考えることができる。もう災害には見舞われたくないが、災害の経験から得られる教訓が、省エネと節電を深掘りし、更には柔軟な電力システムの構築につながることが期待できる。その結果がCO2の排出削減となり、パリ協定の目標達成につながれば尚良しである。

(※1)地球温暖化対策推進本部「日本の約束草案」平成27年7月17日
(※2)資源エネルギー庁「長期エネルギー需給見通し 関連資料」平成27年7月16日
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