世界経済を揺さぶる米中の「過剰生産」の行方
2016年03月08日
現在、中国経済の減速が世界経済にとっての最大のリスク要因として認識される中、世界各国から同国の「過剰生産」問題に対して非難の声が高まっている。これは、中国国内で過剰に生産された鉄鋼製品などが、採算を度外視した安い価格で海外に輸出されることによって、海外の同業他社の輸出減少と収益悪化を招き、実体経済にもマイナスの影響を及ぼしているためである。
中国の「過剰生産」の主因として、同国の「社会主義市場経済」という主要先進国とは大きく異なる国家主導の経済システムの下で、適切な市場メカニズムを通じた過剰設備の削減機能がうまく働かなかったことが指摘できる。加えて、2008年後半以降の世界的な金融・経済危機を受けて、中国政府が4兆元(当時の為替レートで約57兆円)もの景気対策を打ち出し、国内需要が大幅に押し上げられたことも、企業の生産能力増強を加速させる要因となった。
こうした中国の「過剰生産」が注目される一方、中国とは対照的な経済システムの下で経済成長を続ける米国でも、原油の「過剰生産」が大きな問題となっている。米国では、2000年代半ば以降のシェール革命を追い風に原油生産量が急拡大しており、それが現在の「過剰生産」を生み出したのである。さらに、リーマン・ショック後のFed(米国連邦準備制度)の大規模な金融緩和策を背景に、米国の資源関連企業が事業リスクに比べて非常に低い金利で資金調達を行えたことも、企業の過剰な開発投資につながったと考えられる。
米国の原油市場の動向を確認すると、2015年に入ってから需給バランスが大きく崩れており、原油在庫は近年のトレンドを大幅に上回り、過去最高水準での推移が続く。また、一部の地域では、原油の貯蔵場所に困る事態が生じている模様である。こうした米国の「過剰生産」は、原油価格の急落や、資源企業の信用不安拡大などを通じて、グローバル金融市場を揺さぶる要因となっている。現在、シェール革命は、「シェール・バブル」の発生とその崩壊という帰結を迎えつつあると言えよう。
今後、中国では、中央政府主導の構造改革を通じて過剰設備の削減を進めることが重要であり、米国では、シェール関連企業の統合や自然淘汰という現実が待ち受けていることだろう。これらは、かつて「過剰生産」を抱えた日本が通った道である。具体的には、「冬の時代」を迎えた鉄鋼業界において、2000年代以降、民間主導の企業連携・企業統合が行われた。また、石油精製能力の余剰に関しては、政府が制定した「エネルギー供給構造高度化法」に基づき、精製能力の調整が進められている。
ただし、現実問題として、供給サイドの構造問題を短期的に調整することは非常に困難であるため、当面は、「機動的な財政出動」など需要サイドの政策が打ち出されるか否かが大きな焦点になると考えている。いずれにせよ、中長期的に見ると、世界経済の先行きは、米中という二大経済大国の「過剰生産」の行方に大きく左右されることは間違いなく、日本経済にとっても、決して「対岸の火事」でないことを常に念頭に置く必要があるだろう。
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