日銀はどこまで金利を引き下げるか

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2016年03月01日

  • 岡本 佳佑

足下の相場環境はアベノミクス相場に吹き荒れる嵐とでも言おうか。世界経済の先行き不透明感の強まりを背景に、金融市場で円高・株安基調が続いている。こうした金融市場の動揺の沈静化を狙って、日銀は1月末に“マイナス金利付き量的・質的金融緩和”を発表した。この寝耳に水の発表により、日銀はひとまず円安や株高の実現に成功したが、その効果は一時的なものにとどまっている。

こうした金融市場の激変は大変興味深い。しかし、この件の分析については他の文献に譲ることとし、本コラムではマイナス金利に絡んだ疑問について考察することとしたい。

その疑問とは、“量的緩和政策の維持とマイナス金利の導入は両立できるか”というものである。2016年1月時点のデータを基に、当座預金の一部にマイナス金利が課されることで銀行が失うこととなる金額を試算すると、その金額は導入前比で年間660億円程度となる。一方、政策変更によって国債利回りが低下(価格は上昇)するため、今後の金利動向によっては、銀行による日銀への国債売却益は導入前比で年間数兆円規模に拡大する可能性がある。この試算は銀行が保有する資産の運用益への影響などを考慮していないが、国債売却益が損失を上回るのであれば、銀行が当座預金を積み上げる公算は大きく、両立は可能と考えられる。

しかし、量的緩和政策が将来、限界に近づいたときはどうだろうか。銀行は短期金融市場で資金を調達するために担保となる国債を一定程度確保しておく必要がある。また、いずれ売却できる国債が枯渇するため、無限に当座預金を積み上げることもできない。このように量的緩和政策が限界に達すれば、政策を両立させることは不可能となる。その場合、日銀は量的緩和政策からマイナス金利政策、あるいは未知の異次元緩和策に政策の軸足を移さざるを得なくなる。日本に先行してマイナス金利を導入した欧州では、スウェーデン中銀が当座預金に対して▲1.25%の金利を課しているが、日銀はどこまで金利を引き下げることになるだろうか。

偉そうに講釈を垂れたが、やはり市場動向も気になるところである。日銀はこれからマイナス金利の導入効果の検証に移るだろうが、金融市場の動揺が継続するのであれば、検証もそこそこに次の一手に動く可能性も否定できない。サプライズ好きの黒田総裁であればなおさらだ。その場合、次こそは嵐を鎮めるバズーカであってもらいたい。

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