大雪の日に考えた~出勤トリアージュ

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2016年02月25日

  • 河口 真理子

関東地方は今年の冬は暖冬傾向なので、すでにあまり実感がないかもしれないが、1月18日に首都圏は雪害に見舞われ、首都圏の鉄道が大混乱した。首都圏の東側が比較的動いていたのに対して、神奈川県など西側の路線の混乱ぶりがひどかった。

筆者はラッキーなことに経路を変えて30分遅れで出勤できたが、それでも雪が舞い散る寒いホームには列車を待つ人が溢れ到着した電車から下車する人のスペースもないくらい。やっと乗り込んだ列車は、携帯に手を伸ばすのもままならないギュウ詰め状態だった。ホームで待つ人が多すぎて降りる人が降りられず、ますます発車が遅れ更に次の駅で乗れない人が溢れかえるという悪循環になっていた。

なおその日は職場で気候変動に関するセミナーを企画していたのだが、皮肉なことに気候変動の専門家である講演者が来場できずセミナーをキャンセルすることになってしまった。彼女から行けそうにないというメールが来たのはセミナー開始1時間前。それまで2時間も動かない電車の中ですし詰めになり、下車できてもタクシーを捕まえるのはムリで、どう考えても1時間ではたどり着けそうにないとのこと。通信状態も悪かったようで、私達は即刻セミナーをキャンセルするので焦らなくても大丈夫という主旨のメールを返信したのだが、それを彼女が受け取れたのは30分後だったという。

その日の夜見たSNSでも、混雑する駅の階段の途中で転びそうになったとか、最寄りの路線が止まっているのでネット情報を頼りに動いているはずの地下鉄駅に向かったら、駅の周りに長蛇の列で身動きがとれなかったとか、結局4時間以上かけて会社にたどり着いたとか、駅のホームで背中を丸めてじっと耐える通勤客の姿の写真などもアップされていた。

ウーン。なんか変だ。せっかく誰もがスマホやタブレットなど便利なモバイルグッズを持っているのに、手足が凍える駅のホームやすし詰めの車内など、モバイルが使えない厳しい環境に敢えて身を置きじっと耐える。いったいこのうち何割が、絶対に早く職場にたどり着かないといけないのだろうか?医療や介護関係者、店舗での接客業、作業現場での作業、セミナーや授業の先生など『その場』に居なければ仕事にならない人も少なくないだろうが、最近であればモバイルPCがあれば「どこでも仕事ができる」または、そこまでして職場に行かなくても、大した支障もない人も少なくないだろう。だったら、その緊急度合いに応じた出勤トリアージュという仕組みはできないか?

今回のように災害で交通の混乱が予想される場合は、あらかじめ職場に来なければならない緊急度に応じてランク付けし、当日電車の間引き状態に応じて、緊急度の低い人からダイヤが回復するまで自宅待機を認める。またモバイルPCでの在宅勤務に切り替えるようにする。そして間引かれた列車は、絶対に職場に駆けつけなければいけない人のために空けておく。

また、当日の鉄道各社のネット情報も「間引き運転だが動いている」などあいまいだったので、人が押し寄せて更に事態を悪化させたようだ。鉄道各社も何時現在間引き率はX割、主要駅の混雑は通常のY倍で、運行の遅れはどのくらい、というタイムリーな情報を同時に提供してもらえないだろうか。そうすれば、早朝自宅を出て4時間かけて昼過ぎに職場に着いたが午後の会議はフラフラだった、でも冷静に考えればダイヤが回復した昼前に自宅を出たとしても同じ頃に着いたはず、などという悲しい事態も回避することができるし、それこそ生産的で機動的なワークライフバランス対策ではないか?

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