"お互い様の社会の実現"が女性活躍の基盤に

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2014年12月25日

  • 引頭 麻実

安倍政権が誕生して以降、女性活躍が語られない日はほぼ無いといっても過言ではないだろう。筆者も女性であり、大変喜ばしく思っている。

女性活躍を支援するための制度はこの数年で飛躍的に拡充されてきた。妊娠、出産という大イベントが女性にはあり、これが女性の年齢別就業率におけるいわゆる“M字カーブ”を形成する要因と言われるが、このM字カーブを解消すべく、着実に手が打たれてきた。

国は待機児童解消の加速化や、企業における女性登用の「見える化」推進、働き方に中立的な税制・社会保障制度等への見直しなど、様々な改革に取り組んでいる。また企業は育児休業制度の拡充・柔軟化や、女性社員に対する教育・研修制度の充実など多種多様な取り組みを行っている。

このような官民挙げての取り組みは着実に実を結びつつある。例えば厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、筆者が会社に入社した昭和60年当時では、女性の平均勤続年数は6.9年であったが、平成25年には9.1年へと長期化している。男性の平均勤続年数(平成25年で13.3年)にはまだまだ及ばないものの、大きな変化である。

このようにみると女性活躍の制度としての枠組みは整いつつあるし、またその成果に対する数字もついてきた。しかしながら、それでもなお、十分なのかについては疑問が残る。

最大の疑問は、男女の育児休業取得率の差である。厚生労働省の雇用均等基本調査によると、女性の育児休業取得率は平成14年度では64.0%であったものが、平成25年度には83.0%とこの10年間で劇的に上昇した。着実に制度が活用されている証左である。一方で、男性の取得率は、平成14年度の0.33%から平成25年度では2.03%へと、確かに上昇しているものの、その水準は極めて低い。実はこの取得率の大きな格差に男女の働き方に対する根強い価値観の差が浮き彫りになっていると見られるのである。

女性活躍という名のもとに、女性自身に対する制度は拡充し、また女性もその制度を活用するようになってきたことは、社会においての大きな一歩であることは疑いない。しかし、この一歩は残念ながら、“女性社会”のなかでの一歩に留まっており、まだ本当の意味での社会のうねりとはなっていないのである。

男性の育児休業取得率の上昇に力を入れようとしている企業は少しずつだが増えている。しかし、実はそれが女性活躍とどのような関係性をもっているのかについては、本当の理解はまだ進んでいないように見える。

その真髄は何か。“お互い様の社会”をつくるということである。若い世代になればなるほど、共働きの世帯は多くなっている。これは、子供を持つ自社の女性社員は他社(もしくは自社)の男性社員の妻であり、子供を持つ自社の男性社員は他社(もしくは自社)の女性社員の夫である可能性が極めて大きくなっていることを示している。女性にばかり制度を活用させるということは、一方で育児の負担としては女性の方がより重くなることを暗に示唆している。夫側の育児参加は不可欠である。このように見ると、自社の女性社員にのみ焦点を当てる制度活用は社会全体でみればバランスを欠くということになる。

男性社員の制度活用には内心及び腰の企業も多いと見られる。しかし、社会は繋がっている。全ての企業が取り組まなければ、その効果は限定的になってしまう。自社視点で考えている限り、本当の意味での女性活躍を実現する社会としての基盤は強固にならない。

「損して得取れ」ということわざがある。先見の明をもって、男性社員の制度活用を推進し、本当の意味での“お互い様の社会”を実現できるか、経営者の責務は重い。

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