ロシアと原油安

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2014年12月17日

  • 山崎 加津子

原油価格急落を受けて、これが経済やマーケットにどのような影響を及ぼすのかが議論されている。大きな対比で言えば、原油を輸入している国々、原油を原材料や燃料として多く使う企業、ガソリンが生活必需品である消費者などにとってはコスト低下の恩恵がある。逆に、産油国、石油産出企業にとっては輸出減、売上減、収益減の逆風となる。

ロシアはそのような産油国の一つで、輸出総額に占める原油、石油製品、および天然ガスの割合は7割近くに上る。主要企業にはガズプロム、ロスネフチ、ルクオイル、トランスネフチなど原油や天然ガスの採掘、輸送などに関わる企業が名前を連ねる。当然ながら、これら企業からの税収、あるいは原油輸出税、原油採掘税などが国庫収入の重要な柱である。すでに、ウクライナ問題を巡る欧米との経済制裁合戦、ルーブル安とその阻止を目的とした連続利上げと景気悪化要因が目白押しだったが、ここに原油価格急落が加わって、ロシア経済は2015年にはついにリセッション入りすると予想される。

ロシアにとって鉱物エネルギー資源への依存度引き下げが急務であることは明白で、ロシア政府も以前からこの認識を共有している。2008年11月に閣議決定した「2020年までのロシア連邦の長期社会経済発展コンセプト」では、鉱物エネルギー資源への依存度低下を目的に経済の多様化を進めるという目標を盛り込み、民間航空機、宇宙ロケット、造船、原子力分野などを重点産業とした。ただ、それから6年余りが経過したが、ロシアの輸出に占める原油、石油製品、天然ガスの割合はロシア連邦税関局の統計によれば、2008年の62.5%から2014年1-10月は69.0%とむしろ拡大した。原油はほぼ横ばい、天然ガスが14.2%から11.2%に減少した一方、石油製品の割合が16.8%から23.6%へ拡大しているため、付加価値という点では改善したと考えられる。しかしながら、鉱物エネルギー資源への依存度低下という目標に関しては、成果はまるでみられない。

ロシアの外貨準備は為替介入でいくらか減少したとはいえ、11月末の残高が4,188億ドルと潤沢である。また、原油価格の急激な変動に備えるために2004年に創設された安定化基金(ウラル産原油価格が1バレル当たり27ドルを超えた場合の原油輸出税、原油採掘税が原資)(※1)は、2008年に準備金と国民福祉基金に分割されたあとも積み立てが継続され、11月末の残高は合計で1,689億ドルとなっている。これらがルーブル安、原油安に対抗するための緩衝装置としての役目を当面果たすと見込まれる。ただ、実はこのような余剰金が生まれるほど原油や天然ガスのビジネスで稼ぐことが可能だったことが、産業や輸出品目の多様化を阻んできた最大の要因であったとも考えられる。となれば、原油価格下落は、ロシアの経済構造を強制的に変革させる圧力となりうるだろう。ただ、そのためには欧米からの資金や技術が不可欠であり、また、欧米は輸出相手先としても重要である。2015年こそは欧米との間の経済制裁の解除に向けた動きが出てくることが望まれる。

(※1)JETRO「ロシア経済の基礎知識」浅元薫哉・齋藤寛編著(2012年)

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