もう一度、「バランスのとれた再生可能エネルギー政策を」
2014年10月21日
九州電力や北海道電力など電力5社が再生可能エネルギー(以下、再エネ)発電設備の接続申込みの受け入れを中断することを発表し、再エネ政策のあり方が再び注目されている。
2012年7月、再エネ電力の長期間優遇価格での買い取りを保障する「固定価格買取制度」(Feed-in Tariff: FIT)が導入された。これにより買取価格の高い太陽光発電に関する認定申請が殺到、九州電力では設備認定量がピーク需要を1割以上上回る水準に達した。
2011年のコラムでも触れたが、これまでわが国の再エネ政策は、太陽光発電を重視してきた(※1)。FITにおいても太陽光に有利な条件が提示され、その結果、FIT施行後の再エネ導入量(2014年6月末時点)の実に98%が太陽光発電となっている(※2)。
太陽光発電導入量は、約2年間で約3倍に増え(※3)、2013年にわが国は中国に次ぐ世界第二位の太陽光発電市場となった(※4)。2013年の日本の太陽光発電関連雇用は約10万人で前年比116%の増加となり、最大の太陽光発電導入国であるドイツの約6万人を追い抜いた(※5)。日本企業による太陽電池モジュール出荷量は2013年度に前年度比1.9倍と急増した(※6)。
しかし、この間の太陽光発電による電力の買取金額が7,203億円に達したのに対し(※7)、電力消費量に対する寄与(2013年)は1.4%にすぎない(※8)。太陽光発電は電力需要のピーク時に最も発電量が多くなるためピークカットに寄与するものの、エネルギーの安定供給への寄与という点では限定的である。
2011年のコラムでも述べたが、世界を見渡せば、やはり再エネ(水力除く)の本丸は風力とバイオマスである。2011年に世界の再エネ発電量(水力除く)の48%を風力が、38%をバイオマスが占め、太陽光の6%を大きく上回った(※9)。
エネルギー自給率が6%へと低下し(2013年推定値)(※10)、鉱物性燃料輸入額が27兆円(2013年)に達するという(※11)、わが国の置かれた状況に鑑みて、再エネ活用はエネルギーの安定供給により資するものとすべきだろう。太陽光だけでなく、風力やバイオマスの活用も視野に、バランスのとれた再エネ政策を期待したい。
なかでもバイオマスは、風力や太陽光と異なり天候による変動がなく、安定供給が可能である。幸いわが国には、林業がさかんなドイツを上回る豊富な森林蓄積がある。わが国においても欧州に倣い林業の近代化を図り、林産廃棄物の活用によりバイオマスエネルギー利用を進めれば、エネルギー自給率の改善にも地域活性化にも資するうえ、温暖化対策ともなる。今回の再エネ議論を機に、わが国の眠れる資源の活用が進むことを願う。
(※1)物江陽子(2011)「バランスのとれた再生可能エネルギー政策を」大和総研コラム(2011年12月6日)
(※2)資源エネルギー庁 (2014a) 「固定価格買取制度 情報公開用ウェブサイト 再生可能エネルギー発電設備の導入状況等について(平成26年9月26日更新)」
(※3)資源エネルギー庁 (2014a) 前掲、資源エネルギー庁 (2014b) 「再生可能エネルギー発電設備の導入状況を公表します(平成26年3月末時点)」(平成26年6月17日)
(※4)IEA-PVPS (2014) Trends 2014 in Photovoltaic Applications: Survey Report of Selected IEA Countries.
(※5)IEA-PVPS (2014) 前掲
(※6)太陽光発電協会(JPEA)「日本企業における太陽電池モジュールの総出荷量」
(※7)資源エネルギー庁(2014a) 前掲
(※8)IEA-PVPS (2014) 前掲
(※9)EIA International Energy Statistics なお、地熱は7%を占めた。
(※10)IEA (2014) Energy Balances of OECD Countries.
(※11)財務省「貿易統計」
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