定時株主総会は、何のためにあるのか?
2014年10月16日
わが国の上場会社のコーポレート・ガバナンスに対する関心が高まっている。その中でも、特に、注目されているのは、社外取締役の設置義務化であろう。だが、コーポレート・ガバナンスを巡る論点は、それだけではない。定時株主総会、特に招集通知等の早期発送も重要な論点の一つである。
株主の立場からすれば、議案やその背景となる情報について十分に検討するため、できるだけ早く招集通知や参考書類が届けられることが望ましい。特に、機関投資家や海外株主にとって、これは切実な問題である。他方、発行会社の立場からすれば、定時株主総会は、基準日(=決算日)から3ヶ月以内に開催しなければならない(会社法124条など)という制約の中で、参考書類に記載する決算情報に誤りがあってはならないことから、慎重に作業を進め、監査にも時間をかけなければならない。発送時期も自ずと限定される。
この問題への対応策として、近年、「問題の根本は、『(定時株主総会の)基準日=決算日』とする点にある。だから両者を別の日にすればよい」という提言がある。確かに、これは画期的なアイデアであるが、同時に、次のような株式会社の根幹に関わる論争を呼び覚ますこととなる。
「定時株主総会は、何のためにあるのか?」
「基準日=決算日」という法令上の制約はない。しかし、会社法が、定時株主総会を「決算のための総会」と位置づけていることは間違いない。なぜなら、定時株主総会には、事業年度の決算に関する計算書類等を提出し、承認を得ることを求めているからである(会社法438条)。実務が「基準日=決算日」を採用している理由も、この点にある。決算の承認である以上、決算日時点の株主にその是非を問うのが筋だからである。
しかし、会社法は、同時に、会計監査人を設置している会社については、会計監査報告に「無限定適正意見」が含まれているなどの要件を満たせば、承認は不要で、報告のみで足りるとしている(会社法439条)。
配当議案が提出されることが多いのも、定時株主総会が「決算のための総会」であることを反映したものだとされる。会社法は、配当(剰余金の配当)について株主総会の決議を要求しているが(会社法454条)、「定時」株主総会に限定しているわけではない。ただ、配当が直近の計算書類に基づく「分配可能額」の制約を受ける以上、「決算のための総会」である定時株主総会を、「配当のための総会」とすることに合理性があるとも考えられる。
しかし、会社法は、同時に、取締役の任期が1年であるなどの要件を満たせば、定款授権により、配当を取締役会限りで決定できるとしている(会社法459条)。
計算書類等の承認も、配当の決定もない場合、定時株主総会が「決算のための総会」だというのは、最早、名目だけのことだと言わざるを得ない。だとすれば、そのような会社の定時株主総会は、何のための総会なのだろうか?取締役会限りで配当を決定するための要件が、取締役の任期が1年である(=毎年、取締役が改選される)ことを踏まえれば、「取締役の信任(改選)のための総会」と位置づけるのが妥当であろう。そのように考えれば、定時株主総会での議決権を有する株主を、決算日時点の株主に限定する必然性はなく、基準日を柔軟に設定することも許容されるものと思われる。
「決算のための総会」か?「取締役の信任のための総会」か?上場会社の定時株主総会は、重要な岐路に立っているのかもしれない。
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