ロボットへの期待

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2014年10月10日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

21世紀に入ってからの日本経済をふりかえってみると、短期的な景気の波や震災による影響を受けた困難といった特殊な環境があったが、総じて企業の投資活動がなかなか活性化してこないという課題を抱えていたと思われる。今後の日本の経済成長にとっても、この企業の投資活動の活性化がカギとなるだろう。

国内での企業投資が停滞することは、需要サイドでの需要不足をもたらし、供給サイドでは潜在成長率の低下や技術革新などイノベーションによってもたらされる全要素生産性の伸びの鈍化につながった。投資停滞の悪循環構造ができてしまった。そして、企業部門での投資と所得とのアンバランス=貯蓄超過が拡大してきたことが、マクロ経済にもアンバランスをもたらしている構図となっている。

企業部門のアンバランスの度合いを実際の統計でチェックしてみよう。国民経済計算で見ると、民間企業の貯蓄(純)は、2012年度で33兆3,201億円に上っている。同年度の総固定資本形成(設備投資)は61兆6,488億円で、固定資本減耗(減価償却費)の59兆8,202億円を1兆8,286億円上回っている状態であった。つまり33兆円の所得のうち投資に回ったのは2兆円弱だったわけである。企業所得のほとんどは貯蓄に回ってしまうアンバランスがある。いわゆる企業部門のカネ余りである。

企業が投資を抑制してきたのは、高い収益性を期待できる投資案件が少なかったからである。これは個々の企業としては合理的な行動だ。しかし、企業が期待収益性の高いビジネス創出にどれだけ積極的に取り組んできたのか、という課題は残る。技術革新や新しいビジネスモデルの創出など供給サイドでのイノベーションの停滞が、企業の投資活動の停滞につながっていたのではないか。マクロ的なイノベーションの進捗を測る全要素生産性について見ると、大和総研の推計では最近10年間では0.7%程度の伸びであった。このような停滞した環境では、企業の国内設備投資が大きく伸びないことには必然性があると言わざるを得ない。

今後の国内経済の成長のポイントは、労働力人口の減少の中で生産性を高めるイノベーションである。何が必要とされるのかといえば、「ロボット」など労働代替型の投資であろう。ロボットは生産現場の生産性向上だけでなく、生活の中でも介護など人手の不足する領域で超高齢社会を支えるツールとして大いに役立つ可能性がある。ロボット技術の進展と応用に大いに期待したい。

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