「ご長寿」が愛され続けるために
2014年09月01日
先ごろ、2013年の日本の平均寿命が男性で初めて80歳を超え、女性とともに過去最高を更新した(※1)。現代では、年金や介護の問題などはあるものの、元来、長命は人間にとっては喜ばしいことであり、医療の発達による恩恵は大きいといえるだろう。
話は全く変わるが、近年では、人間だけでなくマンガでも「ご長寿」が増えている。今年、長寿マンガの「あさりちゃん」が100巻をもって完結を迎えたという。筆者が子供の頃に読んだ記憶があるマンガである。まだ連載していたのかと驚いて調べてみたところ、連載開始が1978年というから、実に36年にわたって連載していたことになる。
しかし、これも珍しい例というわけでもなく、ふと思いつくだけでも100巻を超える少年マンガや30年以上たっても完結が見えない少女マンガがいくつも思い浮かぶ。ファンとしては自分が生きているうちに完結してほしいという気持ちと、このまま行けるところまで行ってほしいという複雑な気持ちを持つ作品ばかりである。
海外でも、スヌーピーが登場する「ピーナッツ」は50年に及ぶ長期連載として知られていたが、日本においてこれだけ多くの作品が長年連載を続けているということは、マンガが性別や年代を問わず広く受け入れられ、文化として根付いている証拠であろう。
現在、政府はクールジャパン戦略としてマンガをはじめとするポップカルチャーの海外展開へ力を入れている。最近では、経済産業省が海外での日本のマンガ・アニメの海賊版撲滅のため、正規版コンテンツのリンク集をオープンさせるとともに、約580作品を対象に集中的な海賊版削除を開始すると発表した(※2)。
経済産業省のウェブサイトによると、文化庁が平成24年度に行った調査では、中国主要都市(北京・上海・広州・重慶)での日本コンテンツの被害額は年間約5,600億円で、経済産業省が平成25年度に行った調査では、米国でのマンガ・アニメのオンライン海賊版の被害額は約2兆円と推計されるなど、海賊版による被害は深刻になっている(※2)。今後は海外の約300の海賊版サイトに対し一斉に削除を要請し、応じない場合は現地の裁判所での訴訟も視野に入れる、ということである。
ご長寿マンガの連載が続いているということは、この期間、作者が創作活動を通じて印税などの著作権収入を得られてきたということでもある。しかし、海賊版による著作権侵害の場合、マンガ・アニメの製作者や出版社は、単行本やDVDなどの販売による、本来あるべき適切な収入が得られず、経営に大きな影響を与えられ、極端な場合には製作への支障が出る可能性すらある。長く愛される作品をこの先も多くの人が楽しめるよう、今回の取り組みが効果を上げることを期待したい。
(※1)厚生労働省「平成25年簡易生命表の概況」
(※2)経済産業省「初の業界横断的なマンガ・アニメ海賊版対策をスタートします」(平成26年7月30日)
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井出 和貴子
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