持続的な企業価値創造に関する所感

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2014年08月27日

  • 樺澤 敏男

昨今、日本版のスチュワードシップやコーポレートガバナンスコードの策定、会社法改正、また、日本再生ビジョンなどを通じて、「持続的な企業価値最大化のためのコーポレートガバナンス構築」の必要性が論じられることが多くなってきた。

「持続的な企業価値最大化とはどのようなものか」を考えた時、仕事柄、日頃目にする損益計算書の構成から、世界水準でエクセレントカンパニーであるジョンソン&ジョンソン社(以下J&J社)の「Our Credo(我が信条)」を連想した。

これは創業者一族であり31年間にわたり最高経営責任者を務めた三代目社長ロバート・ウッド・ジョンソンJrによって、1943年J&J社が株式を公開する1年前に制定した企業理念である。この中で、「1.お客様への責任、2.従業員への責任、3.社会への責任、4.株主への責任」を企業が果たすべき責任の順番としている。

「株主が一番目に来ないのはおかしい。」と疑問を呈した当時の幹部に対して、ジョンソン社長は「順番はこれでいい。この順番で責任を果たせば、必ず株主への責任は果たせる。」と切り返したそうだ。

ジョンソン社長がこだわったこの順番は、損益計算書を構成する勘定科目の順番とまさに合致するのであるが、持続的な企業価値創造を考える上で、時代を超えて、企業が目指すべき真理であろう。

企業の責任は、まず1番目に、お客様の信頼や満足を得られる商品やサービスを提供することである。その結果が、売上げとなる。

第2の責任は、企業価値創造の担い手として働く従業員それぞれを個人として尊重し、自己実現の機会を与えることである。そしてそれに対する適正な労働の対価を人件費として計上して雇用の責任を果たす。

第3の責任は、よりよい共同社会の実現の一翼を担う役割を自覚し、国や地方公共団体に租税を負担するなどして、公共のために有益な存在となることである。

最後の第4の責任は、健全な利益を生み、株主の期待に応えることである。

残余財産を取り分とする最大のリスクテーカーである株主が企業に期待することは、最終利益の中から、適正なバランスで、配当や自己株買いで還元を求めつつ、内部留保に充当して、設備投資やMAなど次の成長機会の原資として使用することによる企業価値最大化である。

こう考えると、企業はJ&J社のCredoの通りに様々なステークホルダーに順番に責任を果たすことを繰り返すことによって、持続的に企業価値を創造していく社会の公器なのである。

「最適な企業統治体制が、持続的な企業価値最大化のための装置。」であるとするならば、この機会に原点に立ち返り、「持続的な企業価値創造とは何か」を考えるところからコーポレートガバナンス構築に向けた第1歩をスタートする必要があるのではないだろうか。

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