エンドースメントIFRSが持つ意義

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2014年08月15日

  • 引頭 麻実

ASBJ(企業会計基準委員会)はこの7月末、「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)(案)」を公表した。10月末までパブリックコメントを募集するとしている。

まさに、この基準こそが、通称「エンドースメントIFRS(国際会計基準)」である。エンドースメントとは、主に裏書きといった意味で使われるが、ここでは、承認という意味で使われている。エンドースメントIFRSとは、“承認された国際会計基準”ということになる。では、現在日本において任意適用されている国際会計基準と何が違うのだろうか。

現在日本には3つの会計基準が存在する。日本基準、米国会計基準(SEC基準)、前述の任意適用の国際会計基準の3つである。さらに、現在基準になりつつある、このエンドースメントIFRSを加えると、日本には4つの会計基準が存在することになる。SEC基準は米国で資金調達をするために米国証券取引委員会(SEC)に登録している企業に要求される会計基準であり、現在27社程度の企業が採用している。また、任意適用の国際会計基準は35社が現在採用しており、今後予定している企業を含めると44社が採用することになる見通しである。

任意適用の国際会計基準は、ピュア(純粋)IFRSとも呼ばれ、IASB(国際会計基準審議会)で作成されている会計基準であり、金融庁長官が承認する形で、IFRSにはまったく手を加えず、そのまま受け入れている。一方の、エンドースメントIFRSの場合は、IASBが作成した会計基準について、「『あるべきIFRS』あるいは『我が国に適したIFRS』という観点から、個別基準を一つ一つ検討し、必要があれば一部基準を削除または修正して採択するエンドースメントの仕組み」(企業会計審議会「国際会計基準(IFRS)への対応の在り方に関する当面の方針」より)を持ったものである。すなわち、IFRSの個別基準について、原理的には一つ一つ承認するという手続きを踏んで策定されることになる。

このエンドースメントという手続きは日本特有の手続きではなく、IFRS先進国のEUにおいても、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)が欧州委員会に対して個別基準ごとに採用の是非に関する勧告を行い、それを受けて、個別の基準が承認される、という仕組みを採っている。日本ではこのEFRAGの役割をASBJが担っている。

なぜ、このような一見複雑なエンドースメントの手続きを採用するのか。それは、『国家主権』の問題と切り離せない。現在のIFRSでは「のれん」や「その他の包括利益」の会計処理など一部の処理を除いては日本基準と大きく異なる部分は少ない。しかしながら、IASBは今後様々な個別基準を開発するものと見られ、すべての新規の基準が現在の商慣行等に合致するという保証はない。なかには、国益という観点から即座に適用できない個別基準が出てくる可能性も否定できない。そうした場合に、このエンドースメントという手続きが威力を発揮することになる。今回、ASBJが意見募集しているエンドースメントIFRSでは、前述の「のれん」と「その他の包括利益」の部分のみが修正事項とされている。

こうしたエンドースメントIFRSが出現することに対して日本では否定的な見方も多い。会計基準が4つになってしまうこと、多くの個別基準に手を加えることでIFRSとほど遠い基準になってしまうのではないかという懸念、IASBが日本のこうしたエンドースメント手続きに対して必ずしも好意的ではないこと、などが挙げられている。確かに純粋な会計学的観点からみれば、その懸念は理解できる。しかしながら、前述のように国家主権という考え方からみれば、エンドースメントIFRSの存在意義は極めて大きいのである。

ただし、エンドースメントIFRSという新しい会計基準がどのような基準として活躍できるのか、この点については現時点では不透明である。海外における資金調達の際に採用できない基準になってしまうのであれば、中途半端な基準になりかねない。

国益を守るために生み出されたエンドースメントIFRSであるが、それを使い勝手の良い基準にしていくには、やはり国の力が不可欠となる。このエンドースメントIFRSが海外における資金調達の際の会計基準として認められるよう、欧州や米国に積極的に働きかける努力が求められる。エンドースメントIFRSは次のステージに入った。

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