速く歩けない社会

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2014年07月24日

  • 秋屋 知則

先日、運動中に、足に肉離れを起こした。翌日、筋肉痛になったことは何度もあるが、ここまで激痛で歩けない経験は初めてだ。

月曜日に恐る恐る出勤してみると、歩行時間はいつもの倍かかった。交差点では青信号のうちに道路の反対側まで渡れない、エレベーターでは、すぐ手前でも間に合わなくて閉まるドアに挟まれるなど、これまた過去にない経験をした。少し悔しい思いをしながら、バリアフリーについて考えてみた。

まず、筆者の暮らす東京都内では、地下鉄が便利で身近な公共交通機関だ。2つの経営主体のうち、都営地下鉄では2014年3月に「全106駅でバリアフリー1ルート確保が完了」(都交通局 報道発表(2014年3月7日))している。もう一つの東京メトロ(東京地下鉄株式会社)では対象となる138駅のうち、「2014年3月末時点で96%」(東京メトロニュースレター「東京メトロ10周年」編(平成26年6月19日)) だが、2014年度中には少なくとも1ルートはエレベーターや階段昇降機によって段差が解消されるとのことだ。全ての地下鉄の駅でバリアフリーが実現することは、結構なことだが、これで全ての問題が解決したということではないだろう。

バリアフリー化には費用や、古くからある地下鉄の路線では、構内が比較的狭いなどさまざまな制約もあろう。しかし、実際に自分が階段だけで容易に駅と地上の間を行き来できない状況になってみると、恥ずかしながら“不自由なく安心して利用”することの難しさにいろいろと気がついた。

例えば、列車とホームの間の段差や隙間は案外、怖いものだ。足が悪いと、ほんの少しまたぐようでも混み合った乗客の間をぬって、電車から何もつかまることのできないホームに出るのは、想像以上に不安定だ。また、エレベーターが上りホームにはあるが下りにはないといった場合、およそ代替は利かないし、一編成が長い東京の地下鉄の場合、ホームの前と後ろではかなり距離があるので不便を感じられる方も少なくないだろう。

通勤・通学を考えると進む速度の違う人間が流れに入ると、特にラッシュ時には戸惑うことが多かった。治療のため杖を携えている場合でも駅の幅の広い自動改札では必ずしも道を譲られない。こちらが進路を譲ろうにも素早く動けない、人ごみも横切れないと何度か冷や汗をかいた。やはりエレベーターでの乗降を理想とする複数ルートの早期整備が重要だと思われた。

階段を手摺りにつかまりながら降りていると、同様に高齢者がご苦労されているのも気にかかった。元気な高齢者が増えてきたとはいえ、高齢化が進めば、歩行が困難な人も増加するだろう。このところ日本では生産性、効率性が経済の課題としてクローズアップされてきている。もちろん技術革新によってロボットなどでサポートすることも今より容易になってくる。しかし、普段の生活ばかりでなく、防災なども含めてこれまでのように速く歩くことができない人たちが増加することの社会・経済への影響や対応を考えてみることも今まで以上に重要になってくるだろう。

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