インフラ輸出戦略の次の一手とは

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2014年07月18日

  • 引頭 麻実

インフラ輸出が好調である。今年6月3日に開かれた、第11回経協インフラ戦略会議の資料によれば、2013年のインフラ受注(受注金額判明分)は9.26兆円と2012年の3.20兆円と比べて約3倍の規模となった。受注金額が判明しないものも含めると、件数では、2013年は285件と、2012年の137件から倍増以上である。これには総理・閣僚によるトップセールスの効果も大きい。総理・閣僚のトップセールス実施件数(外国訪問分)は2012年の25件が2013年には67件と大幅に増加した。このうち4割弱が総理によるトップセールであるなど、政府が掲げる「2020年に約30兆円のインフラシステムの受注の実現」にむけて、国を挙げての取り組みの成果が着実に表れている。

また、同戦略会議においてインフラシステム輸出戦略の改訂版が決定された。ざっと拝読した印象を言えば、民間の声を聴き、民間が困っている点について現実に即した形で特にテクニカルな面において戦略が強化されている。改訂版は読みやすく整理されており、2013年度版の深堀と新規取り組みが分けて記載されている。

改訂版の中身の特徴を少し述べると、特に地域別取組方針では、一部国別の取り組みの方向性も盛り込まれるなどきめ細かな戦略が立てられている印象である。様々な新規取り組みも記載されているが、金融関係では、公的金融による支援強化として、NEXI(独立行政法人日本貿易保険)の体制強化や、JBIC(国際協力銀行)による新たな融資手段として「劣後ローン」や「LBO(Leveraged Buyout)ファイナンス」の追加検討などが打ち出された。

先日、途上国向けインフラ輸出に係る金融関係者のお話しを伺う機会があった。途上国向けのインフラ輸出を検討する際には、どのようにしてファイナンスをつけるかということが常に大きな課題の一つとなっているとのことであった。プロジェクトの収益性が不透明であることが多く、また当該国の金融市場も未発達であることから、民間からの資金の出し手は極めて少ない。結果としてODA(政府開発援助)に頼っているのが実情である。

そのODAは今年で60周年を迎える。日本のODAは平和的手段による国際貢献の象徴として大きな成果を上げてきたものの、世界もまた大きく変化してきている。そうした流れを受け、この6月に「ODA大綱見直しに関する有識者懇談会報告書」が発表された。報告書では、ODAに求められる役割が変化していることを踏まえ、「ODA大綱」を「開発協力大綱」と改めること、「国際社会の平和、安定、繁栄の確保に積極的に貢献する」というメッセージを掲げること、開発協力を推進する原動力としてODAの位置づけを明確化すること、また国際益と国益とは不可分であり、短期的には国益に貢献しないように見える国際益への貢献であっても中期的には国益に繋がっていることを新大綱のなかで明確にすべきである、といったことなどが提言されている。

インフラ輸出の話に戻るが、ODAなどの特殊なファイナンス形態を駆使した現在の途上国向けインフラ輸出には当然ながら限界がある。加えて、インフラ輸出においては他国との価格競争はますます激化していること、日本として取り組んでいるシステム輸出がまだ十分ではないことなど、国際的に見た場合必ずしも競争優位にあるわけではない。持続的なインフラ輸出を目指すには、もちろん民間ベースでの様々なイノベーションは不可欠となるが、それに加えて、前述のODAも新たな役割を担う必要があるとみられる。キーワードは「短期的には国益に貢献しないように見える国際益への貢献」である。

途上国では国の基盤が確固たるものになっていない国も多い。経済基盤のみならず、政府の基盤、たとえば徴税基盤についても十分ではない、あるいは、経済規模を測るのに欠かせない統計基盤の整備が十分ではない国もある。こうした目立たないが実はその国の基盤システム確立にとって重要な礎になるような分野への貢献は、時間はかかるものの、日本と当該国との関係強化には大きな原動力となるものもあるとみられる。現在のインフラ輸出をドライブするような短中期的な施策とともに相手国の政府の基盤に貢献するような長期的施策を同時並行的に行うような視点が今必要ではないか。

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