Youは何故シティへ?

女性の活躍で復活した金融街

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2014年06月25日

娘が通うロンドンの保育園には様々な人種が集う。それを感じさせるのは、年長のクラスに上がるにつれ、お誘いが増えてきた誕生日会だ。一応クラス全員に声掛けされるのであるが、あまり親しくない友達の会まで行くと週末が全て埋まってしまう。たまに花火もあるから来てねといわれ、英国にも日本の様な手持ち花火があるなら娘も喜ぶかなと思うと、豪華な打ち上げ花火だったりする裕福な家庭もある。だいたい費用は全て主催者持ちであるため、恐縮してなるべく自宅での少人数の会に出席する程度である。しかし今回は、娘の大の仲良しの友達の誕生日会ということなので、家族全員で参加することとなった。行くとなると意外と楽しみであり、早朝に娘を保育園に送る時にいつもすれ違う顔見知りの父親が(ロンドンでは朝は父親が子供を送迎するケースが多い)、どういう背景からロンドンで働いているか調査する絶好の機会にもなるからだ。

当日、プレゼントを用意して友達宅へ行くと既に同じクラスの7人の子供達と、その両親がそろっていた。さっそくどこの国の出身かを聞いてみると、G8+オランダ、スペイン、シンガポールといった国々がちょうど1人ずつそろっていた。相変わらず多国籍な街だなと感心するとともに、相手も同じことを思っているようで、お互いにロンドンで何をしているかの話になった。今回は驚くことにシティに勤める共働きの金融関係者の両親が殆どであったため、特に身の上話に花が咲いた。皆の関心が一番集まったのは、世界中にある金融街のなかで、何故シティを選んだかという動機だ。今回の参加者で赴任者は私とフランス人の2人だけであったが、いつかは赴任のチャンスもあるだろうと思う各国の金融スペシャリストが、何故、自国での華々しいキャリアと年収を捨てて、あえてシティへ来たかにも興味があった。その中でも最も多かった意見が、父親ではなく、母親のキャリアを第1に考えたということには衝撃を覚えた。

シティで一攫千金というのは昔の話であろう。英国では、リーマン・ショック以降の所得税率のアップや、高い社会保障費、現在検討されているボーナスの報酬制限も加わり、昔ほど高額な報酬は期待できない。また追い打ちをかけるように、昨年から極端な住宅バブルが発生しており、ロンドンの極小2LDK住宅の家賃はNYや東京以上に高額となっている。稼ぎが少なくなった分、最近のシティでは共働きが当たり前であり、女性の金融スペシャリストが多く活躍する傾向が強くなっている。当然どこの国でも職場結婚は多く、夫婦そろって金融スペシャリストであることは珍しくない。ただし、どこの国でも事情は似ており、女性の方は、子供が生まれると海外出張が多いなどの理由で現職を諦めざるを得ないケースが多いとのことだ。そういった夫婦が結婚を機にシティへ渡り、お互い仕事をしながら子供を産み育てることがロンドンではできると判断していることは興味深い事実であろう。ロンドンに来れば多国籍な人々が全て英語でコミュニケーションを取れるという安心感と母親が働きながらも子供の教育が充実するということが、大きなモチベーションに繋がっているようだ。特に多国籍な街であるが故に選択できる母国語のナニー(ベビーシッター、お手伝いさん)や、長時間の保育園も多く(朝7時から12時間預かってくれる、我が家も活用中)、食事、読み書きの授業付の保育サービスもある。日本の様に保育園と幼稚園などの区別もなく、毎日、お弁当を持ってこいなどとはいわれない。要するに女性にとって自身のキャリアと子供の教育が両立できる最良の街であるということである。

過去1990年代にロンドンに赴任したことがある金融マンが出張で来る際、口をそろえて言うのは、こんなにロンドンの景気がよくなるとは思わなかったとのことである。2000年代の景気回復局面が、丁度、EUが積極的な移民政策を実施した時期と重なるのは偶然ではないであろう。もともと難民や亡命者のみならず、経済移民をも広く受け入れてきた歴史をもつ英国では、永住移民の流入が多く欧州の中でも移民に寛容な国といえる。また反移民的な態度を人種差別の表れとして、移民政策の厳格化にモラル面で反対する社会的な風潮も存在する。移民政策により、シティに多くの外国人が集い、好景気を形成したと言っても過言ではないであろう。特に、子育ても自分のキャリアもと考える女性にとって、ここまで働き易い街も珍しく、優秀な女性外国人を引き付けたともいえる。まさに女性の活躍で成功した金融街のモデルケースとして参考になるのが現在のシティなのかもしれない。

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菅野 泰夫
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 菅野 泰夫