事業承継に向けた第一歩

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2014年05月20日

  • 大川 穣

社会全体の高齢化から「事業承継」という言葉を非常に多く耳にするようになった。しかし、帝国データバンクの調べによると、8割を超える企業が経営問題として認識している一方で、6割超の企業が取り組んでいないという状況であり、その理由の半数近くは「まだ事業を譲る予定がない」となっている。

平成25年度税制改正により、「事業承継税制」について、手続きの簡素化や制度の煩雑さの抜本的な見直しが行われている。制度は整ったものの経営者自身の行動が追いついていないと感じる。

一口に企業といっても、会社の規模感、置かれている経営環境、業績など様々であるが、中小企業に限ればその多くはオーナー社長であり共通点は多い。筆者なりには、彼らは次のような局面に差しかかっていると考えている。

  • ・リスクをとって創業し、事業を拡張していくなかで栄光があった。幾度となく訪れた厳しい経済環境を乗り越え、今なお陣頭指揮をとり現役で生き抜いている。経営者自身が事業活動そのものに全力を注いでおり、第三者的な視点で経営の状況を見つめ直す機会を持ちにくくなっている。
  • ・周りを見渡した時、子供はすでに社会人となって、現場の第一線を取り仕切るまで成長している。可能であれば「子供に継いでもらいたい」という思いがある一方、「後継者としてはまだまだ時間と経験が必要だ」といったジレンマを抱えていたりする。承継による体制変更によって効果を生み出すため、従業員の理解を深めることの重要さを感じはじめている。
  • ・アベノミクスにより景気回復が期待されるものの、将来の業績低迷等の不安から事業承継自体に消極的となり、誰にも相談できずにいる。他者に相談したところで解決する問題ではないとも思っている。

このように、中小企業の経営者は事業と後継者そして将来見通しのそれぞれの課題の狭間に立たされている。事業承継にまつわる課題は、日々の経営課題に向き合うことからはじまり、3年、5年といった時間軸を持たせて考えることで顕在化する。「誰に」「どのように引き継がせるか」といった方法論を考えるのは、その後でいいかもしれない。

基本的なことかも知れないが、事業承継を考え始めたとき、自社の経営状況を客観的な視点で把握し、将来へのあり方について整理することからはじめてみてはどうだろうか。経営者が築き上げてきた「ものの見方や考え方」、「仕事のやり方や仕事ぶり」といった目に見えない「経営力」をいかにして仕組みとして整理していくかは重要だ。

一般的に、事業承継には5年~10年の準備期間が必要と言われている。これから20年、30年いや100年先までの持続的な成長を目指していくとしたら、経営の役割として今が取り組むタイミングではないだろうか。

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