濡れぬ先の傘

エルニーニョ現象に備える

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2014年05月19日

  • 大澤 秀一

立夏(今年は5月5日)も過ぎ、そろそろ今夏(6~8月)の天候が気になってきた。2013年は全国で暑夏となった(※1)。特に、西日本の夏平均気温平年差は+1.2℃となり、統計を開始した1946年以降で最も高かった。平年差とは、観測値と平年値(※2)との差である。なお、実際の平均気温が何℃であったのか気になるところだが、日本全国の正確な見積もりが困難なことと、気候変動を監視する上では数値そのものにあまり意味がないとして算出されていない。

気象庁の季節予報によると、今夏の気温は北日本で平年並みか低く、西日本と沖縄・奄美では平年並みか高く、東日本でほぼ平年並みの見込みとされている(※3)。また、降水量は北日本では平年並みか多く、西日本では平年並みか少なく、東日本と沖縄・奄美ではほぼ平年並みと予測されている。気になるのは、今夏から5年ぶりにエルニーニョ現象が発生する可能性が高いとしている予測である(※4)。エルニーニョ現象が発生すると、日本をはじめ世界中の天候に大きな影響を及ぼすことが知られているからだ。

エルニーニョ現象とは、中部太平洋赤道域から南米沿岸までの広い海域(南緯5度~北緯5度、西経150度~西経90度)の海面水温が、基準値(その年の前年までの30年間の各月の平均値)との差の5か月移動平均値(その月および前後2か月を含めた5か月の平均をとった値)が6か月以上続けて+0.5℃以上となった場合をいう。逆に、−0.5℃以下となった場合はラニーニャ現象と定義されている。1949年以降、エルニーニョ現象及びラニーニャ現象はそれぞれ14回発生している(図表)。統計調査から、エルニーニョ現象が発生した夏は、米国西海岸と西ヨーロッパで低温・多雨となる一方、豪州と南米北部では干ばつになる傾向が強い(※5)。日本では低温・多雨・寡照(日照時間が短い)となる傾向がある。

図表 太平洋赤道域中部から東部の海面水温の基準値との差。

2014年2月現在、エルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生していない平常の状態が続いているが、夏には5年ぶりにエルニーニョ現象が発生する可能性が高いと予測されている。赤数字はエルニーニョ現象、青数字はラニーニャ現象の発生をそれぞれ表している。

図表 太平洋赤道域中部から東部の海面水温の基準値との差。

前回発生したエルニーニョ現象(2009年夏~2010年春)が日本の気候に与えた影響を確認しておくと、2009年夏には北日本と西日本日本海側で多雨、北日本から西日本にかけて日照不足となった。また、九州北部地方から東海地方にかけては長梅雨となったため、「平成21年7月中国・九州北部豪雨」(※6)と命名されるほどの顕著な災害(死者35名、負傷者59名、損壊家屋等382棟、浸水家屋11,864棟)につながってしまった。長梅雨や豪雨は多くの気象要素が絡み合ったものだが、その一因としてエルニーニョ現象の影響があったと考えられている。

今後は、エルニーニョ現象に対する関心は、発生確率から強度に移っていくものと思われる。防災関係者は、気象機関等から発表される強度予測と各地の気象に及ぼす影響に関する情報を的確に入手し、天候リスクへの効果的な対応を行うことが求められる。濡れぬ先の傘だ。

(※1)「平成25年(2013年)夏の日本の極端な天候について」、気象庁(平成25年9月2日)
(※2)平年値は西暦年の1位が1の年から数えて、連続する30年間について算出した累年平均値をいい、これをその統計期間に引き続く10年間使用し10年ごとに更新している。 現在は、1981~2010年(昭和56年~平成22年)の観測値に基づいた平年値を使用している(気象観測統計指針による)。
(※3)「夏の天候の見通し(6~8月)」(暖候期予報(平成26年2月25日発表)の解説)、気象庁
(※4)「エルニーニョ監視速報(No.260)」、気象庁(平成26年5月12日)及び、“WMO Update Indicates Possible onset of El Nino Around Middle of Year”、世界気象機関(WMO)(15 April 2014)
(※5)「エルニーニョ/ラニーニャ現象に関する知識」、気象庁
(※6)「平成21年7月中国・九州北部豪雨による被害状況等について」、内閣府(平成22年3月26日17時30分現在)

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