自由化で料金は安くなるのか

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2014年05月16日

  • 引頭 麻実

この3月、エネルギー自由化の先輩格にあたる欧州を訪問した。主な目的は、家庭用小売自由化の実態を見てくることであった。

欧州における小売自由化に対する評価は必ずしも芳しいものではない。どのような状況になっているかといえば、①結果として料金が上昇してしまった、②事業者の選択肢は増えたが、どれも価格に大差はない、③たとえばフランスでは、経過措置として自由料金と規制料金の両方が存在し、規制料金の方が割安になってしまっている、といったような点が指摘されている。

①の料金上昇について言えば、原料となる天然ガスや原油などの総コストに占める比率が非常に高く、販管費などの部分で事業者が努力したとしても、原料コスト増を補いきれていない、という実態がある。また、②については家庭用小売単体では、なかなか差別化が難しいことを示している。より複合的なビジネス展開が望まれるということであろう。さらに、③については、規制料金は撤廃される方向にあり、徐々に解決されていくとみられる。

欧州のある国の規制機関にも訪問した。規制機関の担当者は、窮地に立っていた。担当者は、公正な競争を通じて、消費者の選択肢を広げることに腐心してきたのであるが、先ほどのような指摘があり、消費者からもそして政治家からも厳しく詰め寄られている模様であった。

このように見ていくとそもそも自由化は何のためにするのか、という疑問が湧いてくる。この議論は非常に複雑で、様々な面を含んでいるのだが、ここでは、国と国民の役割という観点から見ていきたい。

公益事業や規制事業などが自由化の対象となるが、そもそも国がこれらの事業に対し関与の度合いが高かった背景には、当然ながら、民間の力のみでは、事業そのものの遂行が難しいため競争が存在せず、その結果、利用する立場の国民が圧倒的な弱者になってしまっていたことにある。事業の当初は資本不足であることが多く、国の関与は不可欠であったともいえる。

しかしながら、時が過ぎ、当該事業の資本も蓄積され、また技術(これはテクノロジーのみならず、オペレーションも含む)も進歩していくと、少なくとも事業を遂行する上での国の役割は低下することになる。民間で十分に事業を進めていけるという判断となっていく。

ここで重要なことは、国にはまた新たな役割が生じているはずであるという仮説である。世の中の進歩とともに国もまたその役割を進化させる必要がある。このようにみると自由化は国の進歩の過程に過ぎず、もし国がその後も旧態依然の役割にのみ甘んじるのであれば、その国の進化は止まってしまう。

一方で、国民の役割も大きく変わっていく。新しい役割とは“モニタリング”である。自由化以前では、基本的には国の方針に従っていれば、ある意味で“保護”されてきたのであるが、自由化後には自らが問題意識を持って、事業者の事業姿勢をウォッチし、またそれについて情報発信していくことが重要となってくる。国民がこのような役割を担わなければ、やはり国は進化しないのである。

ただし、これだけでは、つまり自由化による役割の変化だけでは国の進化が十分なものになるとは言えない。自由化に伴って、イノベーションも不可欠となる。技術的な側面のみならず、事業の定義や範囲、進め方など、様々な分野においての、新しいアプローチが必要である。これらを通じて、自由化以前には提供が難しかった“新しい価値”を国民に提供していくことが、真の自由化の姿であろう。“新しい価値”を提供できるかどうかが、自由化の重要なポイントではないか。

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