NISAとノンアルコールビール

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2014年04月28日

  • 河口 真理子

今NISAが個人投資家層拡大の起爆剤と期待され、各社NISA向けの金融商品を開発しているが、その際にはノンアルコールビール開発の発想が参考になるのではないか。

筆者は15年ほど前からSRI投資について、投資とは縁がないと思っている一般の市民や学生、労働組合の方たちと対話したり、勉強会で話をしてきたが、そういう場で株式保有の有無を尋ねると保有者は通常1割にも満たない。また日本証券業協会によると2013年末の証券口座数が2,200万弱にとどまることからしても、日本社会では8割から9割の人は株式投資とは無縁と思って暮らしているようだ。証券会社の店頭には絶対来ないと思っている人たちと接していく中で、日本人にとってお金は汚いもの、まして自ら汗してモノを作って儲けるのではなく相場で儲けることは良くない、恐いこと、という意識が根強いように感じる。

一方で3.11の後、復興支援の一環としてネットを通じて被災地の企業の再建を投資や寄付で応援する「被災地応援ファンド」が話題になった。これはネットで資金を集めるクラウドファンディングのうち出資型といわれるマイクロ投資ファンドである。マイクロ投資ファンドとは、「市民から匿名組合等の形式で少額の出資金を集め、銀行などが融資しにくい事業やプロジェクトに投資を行う『市民のプロジェクトファイナンス』」(NPO法人社会的責任フォーラム『日本SRI年報2013』)のことで、出資金に元本保証はないのでリスクはある。それでも応援するために出資したい人は増えている。被災地応援のほか、自然エネルギー、途上国支援、地域再生などに関わる社会企業を応援するマイクロ投資ファンドは『日本SRI年報2013』によると90億円弱まで残高が拡大している。翻ってみると、1999年に発売され一時ブームになったエコファンドも、株式投資は初めてだが環境に良い企業を応援したいという個人に支持された。2011年に発売された大和マイクロファイナンス・ファンドは、途上国の貧困撲滅支援のコンセプトが、金融は知らないが途上国支援に関心ある若者に支持された。某地方新聞にファンドの広告掲載を依頼したら、先方がそのコンセプトに共感し購入につながった逸話もある。インパクトインベストメントは途上国の子供の健康や教育に役に立つことが投資の動機になっている。

つまり、相場による値上がり期待ファーストでなく、社会的な意義に共感しながらも「そこそこ」のリターンを期待する。こういうコンセプトは日本人の多くにマッチするのではないか。金融機関は、最大のリターンを最小のコストで達成する金融商品こそが求められると思いがちだが、多くの日本人の望む金融商品は必ずしもそうではないのではないか。

たとえばお酒を飲めない人に、いくら安くて美味しいお酒を提供しても、アルコール分解酵素がなければ飲めないし、無理に飲むと倒れたりする。酒席で彼らに勧めるとすればノンアルコールビールだろう。お酒を飲む人(一般の投資家)はアルコール(リスクを取ってリターンを求める)を欲するが、お酒がダメな人(投資とは無縁と思っている人)でもノンアルコールビール(社会的意義を重視する少額出資型のマイクロ投資)なら飲めると考える人は少なくない。また多少アルコールが嗜める人なら、カクテルなどの低アルコール飲料(マイクロファイナンスファンドやエコファンド、SRIファンドのように社会貢献の意義が明確なファンド)にも魅力を感じるかもしれない。日本人のメンタリティにマッチした金融商品開発を期待したい。

(※)マイクロ投資の事例として、セキュリテのサイト
市民発電は、コミュニティパワーイニシアチブが詳しい。
通常基本1口数万円の小口で、市民発電や、コミュニティビジネスなどへの出資を募り収益に応じて配当が予定される。10年以上の歴史のある市民発電の場合は、1-2%の利回りとなっているケースも少なくない。

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