EUのエネルギー政策の課題は「持続的で高すぎないエネルギーの供給」

ロシアとの関係悪化で政策の重点は変わるか?

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2014年03月25日

  • 山崎 加津子

ウクライナ問題を巡って欧米とロシアの対立が深刻化し、欧米はロシアに対する経済制裁を強化している。ロシアがこれに対抗しようと思えば、対欧州では原油と天然ガスの供給停止という強力な武器が存在する。EU(欧州連合)の輸入に占めるロシアの割合は原油では3割強、天然ガスでは2割強と高い。もっとも、逆の見方をすれば、原油・天然ガスはロシアの主要輸出品目で、EUはその最大顧客である。景気低迷が深刻なロシアが輸出停止に踏み切ることは簡単にはできないだろうと予想される。

それでも、エネルギーという重要な資源をロシアに大きく依存していることは、EUの問題点である。当然ながらこの問題は今回初めて認識されたわけではなく、「エネルギーの対外依存度を引き下げる」ことはEUの長年の課題である。特に2008年にロシアからの天然ガス供給が滞って以降、輸入元を分散させることと、エネルギー源を多様化させる取り組みが強化された。原油、天然ガスなどの鉱物資源はEU内での生産量は先細りが予想されるため、風力、太陽光、バイオマスなどの自然エネルギーによる発電を促進する政策が取られた。自然エネルギーの推進には、温室効果ガスの排出削減に加えて、対外資源依存を低下させるという目的もあるのである。

EUはエネルギー政策で2020年までに (1)温室効果ガス排出量を1990年比20%削減、(2)再生可能エネルギーが最終エネルギー消費に占める割合を20%へ拡大する目標を掲げている。今年1月に欧州委員会が発表した中間報告では、双方とも2020年の目標達成が可能との見通しが示された。同時にその次の10年、すなわち2030年までの目標値の勧告もなされ、(1)1990年比40%削減、(2)27%以上と目標を一段と引き上げることが提案されている。

ところで、この数値目標はあくまでエネルギー政策の目的の一部であり、EUのエネルギー政策の目的は「安全で、持続性があり、コスト効率のよいエネルギー供給」であり、ひいては持続的な経済成長に貢献するエネルギー政策と考えられる。

「安全で持続的な」エネルギー供給のためには、多様なエネルギー源を確保し、どこかに問題が生じても他でカバーできるようにしておく必要がある。ただし、鉱物エネルギーに代えて自然エネルギーを増やした場合、多様化に加えて再生可能という利点はあるものの、発電コストが高い、供給量が安定しない、発電できる場所が限定される等の問題がある。家計や企業の大幅な負担増になり、消費減退や企業競争力低下の原因になっては本末転倒である。

「コスト効率がよい」エネルギー供給のために、EUは2014年中にEUのエネルギー市場統合を完了させ、2015年にはすべてのEU加盟国が域内のガスと電力の供給網に接続されて相互に売買が可能な状態にすることを目指している。競争促進を図り、エネルギーコスト低下につなげることが狙いである。なお、EUが決定するのはエネルギー政策の外枠であり、その中でどのようなエネルギー・ミックスを選択するかは加盟各国の自主性に委ねられている。

結局のところ、EUのエネルギー政策は持続的な経済成長、競争力保持、環境保全、安全保障などさまざまな政策課題と深く関わっており、その中で最適な解を見つける必要があると考えられる。ロシアとの関係悪化でエネルギー資源の安定供給への注目度が高まったが、この問題も含め、どのようなエネルギー対策を講じれば、持続的な経済成長に貢献することができるか、EUでは2020年、2030年という長期ビジョンを描き、さらにその途中経過を検証しつつ取り組んでいると見受けられる。

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