欧州委員会が2030年に向けた気候・エネルギー政策の枠組を発表

RSS

2014年02月20日

  • 大澤 秀一

欧州委員会は2014年1月、欧州連合(EU)における温室効果ガス(GHG)排出量を、2030年に1990年比で40%以下にする削減目標並びに関連施策を連ねたコミュニケーション(指針)を発表した(※1)。要点は以下の通りである。

1.拘束力のあるGHG排出量の削減目標: GHG排出量を2030年までに1990年比で40%以下に削減する。方策としてEU排出量取引制度(EU ETS)の第4フェーズ(2021年以降)における年間GHG排出量の上限(キャップ)の削減比率を、現行の1.74%から、2021年以降は毎年2.2%に引き上げる。EU ETSの対象外分野(※2)については、2005年の排出量水準から30%削減する。欧州委員会は削減目標を2015年の早い時期に国連気候変動枠組条約(UNFCCC)に提出できるよう、閣僚理事会と欧州議会に対して2014年末までに合意することを要請する。

2.拘束力のあるEU全体の再生可能エネルギー目標: 再生可能エネルギーは、国際競争力を持つ安全で持続可能なエネルギーシステムにおいて重要な役割を果たす。全消費エネルギーに占める再生可能エネルギーの比率を2030年までに少なくとも27%にする(※3)。エネルギー貿易収支の改善による経済成長と、EU固有のエネルギー資源への移行によって雇用の増加と安全保障がもたらされる。数値はEU全体としての目標であって、加盟国のエネルギー計画にそのまま置き換わるものではない。

3.エネルギー効率: 国際競争力を持つ安全で持続可能なエネルギーシステムへの移行を実現するためにエネルギー効率の改善を行う。数値目標は、現在、見直し中のエネルギー効率化指令を2014年後半に改めて検討する。加盟国のエネルギー計画にはエネルギー効率が含まれなければならない。

4.EU ETS改革: EU ETSの第4フェーズで市場安定準備の導入を提案する。市場安定準備とは、経済活動の停滞で発生した余剰排出枠やオークション排出枠を一旦、準備の中に積み立てておき、需給が逼迫したときに取り崩して価格を安定化させる仕組みである。法律で定めた規則の下で運用し、欧州委員会や加盟国の裁量の余地はないものとする。

5.手ごろな価格で国際競争力を持つ安全なエネルギー: 2030年に向けて、手ごろな価格で国際競争力を持つ安全なエネルギーを実現するために、指標群を提案する。例えば、貿易相手国とのエネルギー価格差、エネルギー供給源の多様化、固有エネルギーへの依存性、加盟国間の送電容量等の指標である。指標を長期にわたって評価し、2030年に向けたエネルギー政策を立案するための基盤とする。

6.新たなガバナンス体制: 2030年に向けて、国際競争力を持つ安全で持続可能なエネルギーシステムを実現するために、加盟国が策定する国別エネルギー計画に基づく新たなガバナンス体制を提案する。国別エネルギー計画は、欧州委員会の助言と共通のアプローチの下で策定され、EU全体の一貫性とコンプライアンスを兼ね備えたものになる。

今回の指針は、EUがGHG排出量を2050年までに1990年比で80~95%削減する目標(※4)を達成するために必要な、2030年に向けた枠組として提案されたものである。今後は、欧州理事会において、低炭素経済を実現するための基本指針や解決すべき課題としての承認が検討され、閣僚理事会や欧州議会では必要な法令等の整備が協議されることになる。具体的な立法等はこれからだが、環境技術の開発やエネルギー関連のインフラ投資の予見性を高めるために、環境とエネルギーの将来的な枠組を早期に構築することは重要である。

今回の指針でも見られたように、科学的知見から導きだされた削減目標を設定し、その目標の達成に必要な方策を協議するEUの政策形成過程は良い見本である。我が国を含めた多くの国で行われている、できる範囲の政策を積み上げて削減目標を設定あるいは事情に応じて修正する姿は主客転倒と思われても仕方がないかもしれない。

(※1)欧州連合プレスリリース(2014年1月22日)
(※2)EU ETSの対象外分野は、発電所、製鉄、セメント、石油精製、航空運輸(EU域内の発着のみ)、アルミ、化学以外の分野のことで、EU域内の総排出量の約55%を占める。
(※3)欧州議会は2月5日、再生可能エネルギーの比率を30%に引き上げることを採択した(欧州議会プレスリリース)。法的拘束力はないが、もう一つの政策決定機関である閣僚理事会で引き続き協議される。
(※4)欧州委員会ウェブサイト“Roadmap for moving to a low-carbon economy in 2050”(2014年1月30日)

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。