東京2020"DiscoverTomorrow"を豊富化する視点

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2014年02月14日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

ソチ冬季オリンピックが開催中である。3月にはパラリンピックも行われる。日本では、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた動きが始まっている。

2016年にはリオデジャネイロでオリンピック・パラリンピックが開催されるが、2008年の北京オリンピック同様、新興国の開発=経済力の発展を象徴するような催しとなるのではないだろうか。リオデジャネイロの招致ファイルにおいては、オリンピック・パラリンピックのビジョンを“Games of celebration and transformation” としている。スポーツ自体に力点をおき、レガシーという点でもリオデジャネイロの都市としての「転換」のためにオリンピック・パラリンピックを活用したいということが第一のようだ。「転換」の中身は、空気の質の向上、公共交通機関の拡張、治安の改善、世界最大の都市における森林の保護、各種開発プロジェクトの進展となっている。環境に配慮した持続可能な開発の推進ということがこれらを貫くテーマであろう。

オリンピック憲章によれば、オリンピズムの根本原則の第一項に「オリンピズムは人生哲学であり、肉体と意志と知性の資質を高めて融合させた、均衡のとれた総体としての人間を目指すものである。スポーツを文化と教育と融合させることで、オリンピズムが求めるものは、努力のうちに見出される喜び、よい手本となる教育的価値、社会的責任、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重に基づいた生き方の創造である。」(※1)とある。オリンピック・パラリンピックはスポーツの祭典というだけでなく、文化、教育との融合の場として位置づけられなければならない。スポーツとの融合を可能とするような文化、教育イベントを企画していくことも重要で、2012年ロンドンでは、文化を重視する取り組みがなされたことは記憶に新しい。ロンドンの文化プログラムでは英国全土で音楽や演劇、舞踊、美術、文学、映画、ファッションなど、多様な文化イベントが開催された。

東京2020の招致ビジョンは“Discover Tomorrow”である。東京2020の準備を進めていく中で、この“Discover Tomorrow”というビジョンをより具体的な取り組みによって、如何に豊富なものにしていくのかが課題だろう。その時、カギとなるのは「スポーツを文化と教育と融合させる」という点において、オリジナリティーあふれる企画を豊富に展開し、世界の将来像を提供することだと思われる。日本の場合、中国やブラジルのように開発というテーマが前面に出るということは考えにくいし、伝統的な意味における「国威発揚」を強調することも必要ないであろう。

日本は課題先進国であるといわれる。その第一の課題は世界のほかの国に先駆けて超高齢社会に突入し、さらに高齢者人口比率が高くなっていくことである。年金・医療という社会保障の問題に加え、家族の在り方や地域社会の在り方も大きく変化していく可能性がある。文化の担い手や在り方も変わっていく可能性がある。

オリンピックはアマチュアもプロも参加するイベントである。文化活動においても幅広くアマチュア層の参加を促せるようなプログラムを展開できないだろうか。東京に限らず震災復興途上の東北地方をはじめとして、広く日本人全体の文化活動を高めていく契機にすることは可能だろう。日本では、もともと自主的な文化活動に参加する人はかなり多いと思われるし、超高齢社会となった現在、高齢者の社会参加のあり方としても、様々な文化活動は重視されてよい。高齢者も含めた参加型のプログラムを既存の多くの文化団体の協力を得て展開していくことができるのではないだろうか。参加型のスポーツイベントと文化イベントとの融合という在り方も考えられる。観るだけのオリンピックから参加するオリンピックになることは、多くの関心を持つ国民に歓迎されるのではないだろうか。そうした参加型の文化プログラムの展開によって、日本が将来に向かって、物質的な豊かさだけでなく、健康や精神的豊かさを追求していくという視点が、東京2020“Discover Tomorrow”の豊富化に役立つと思う。

(※1)日本オリンピック委員会ウェブサイト「オリンピック憲章」2011年版・日本語。

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