中国地方全人代から見えるもの

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2014年02月07日

  • 金森 俊樹

中国各地方では、1月半ばから、まもなく開催される全国の両会(全人代と政治協商会議)に向けて、地方での両会が開催されてきている。2014年は、昨年11月の三中全会(第3回共産党中央委員会全体会議)で示された、あらゆる分野にわたって改革を深化させていくという‘全面深化改革’が、今後どの程度進んでいくかを占う重要な年と位置付けられるが、地方政府が様々な意味で中国経済改革の鍵を握ることを考えると(2013年12月2日リサーチ「中国経済転換の鍵を握る地方政府」)、地方の両会の状況にも注目しておく必要がある。

成長率目標引き下げの動きが主流に

昨年の各地方の成長率目標は、上海市(7.5%)を除いた30の省市区全てで全国の目標7.5%を超える目標値、うち24が10%を超える目標値を設定し、地方の強い成長率志向が改めて明らかになっていた。本年の全国の目標値がどの程度の水準になるかなお不明であるが、各地方では、各々の目標値を昨年より引き下げる動きが顕著である。2月初時点で、まだ数値が明らかになっていない湖南、海南、安徽の3省を除く28の省市区のうち21が目標値を引き下げ、6が昨年と同水準で、広東省のみが0.5%引き上げている。引き下げた21の省市区の大半は0.5-1.0%の比較的小幅な引き下げであるが、内蒙古(12%から9%)、吉林(12%から8%)等、大幅に引き下げた地区も見られる。大幅に引き下げた地区の直接的要因としては、13年の成長実績が目標を大きく下回ったことが大きい。例えば吉林の場合、12%目標に対し実績はそれを大きく下回る8.3%だった。ただし、目標を引き下げ、あるいは据え置いた地区の中でも、13年の実績が目標を上回っているところは少なからずある(例えば西蔵は目標12%に対し実績12.5%、雲南、天津、重慶は目標12%に対し、実績は各々12.1%、12.5%、12.4%)。

吉林の場合、これまで貿易・投資依存の成長を続ける中で環境汚染が深刻化し、これを消費等内需主導の質を重視した持続的成長に転換させようとしていること、また西部大開発や近年では地震復興需要という要因もあって、改革開放以来高成長を続けてきた四川も同様の考え方(‘思路’)をとるようになっているとの、省幹部や省関連シンクタンクの発言が伝えられている(1月30日付人民網)。相対的に発展の遅れた地域である貴州の省幹部は、「発展の遅れた地域は、一定の発展速度を維持しなければ、地域間格差の是正や様々な民生問題を解決することはできないが、発展速度と同時に質も追求することが重要。いずれにせよ、かつての14%、あるいはそれ以上の成長目標を掲げられるような財政面、政策面での支援は最早ない」と述べている(1月17日付第一財経日報)。他方で、天津や重慶といった直轄市、また陝西、甘粛等中西部では、目標値は下げているといっても、なお10-11%の二桁の目標を掲げている。昨年来、中央は地方政府の役人の成績評価基準は成長率だけではないことを強調してきているが、多くの地方での成長率目標引き下げの動きが単なるマクロ景気動向要因だけではなく、真の意味での地方の意識変革の兆しなのかどうかは、なお注意深く見ていく必要がある。

(成長率目標を引き下げた21地区)

北京8%→7.5% 福建11%→10.5% 甘粛12%→11% 広西11%→10% 貴州14%→12.5% 河北9%→8% 河南10%→9% 黒竜江11%→8.5% 吉林12%→8% 江蘇10%→9% 遼寧9.5%→9% 内蒙古12%→9% 寧夏12%→10% 青海12%→10.5% 山東9.5%→9% 山西10%→9% 陝西12.5%→11% 四川11%→9% 天津、雲南、重慶何れも12%→11%

(据え置いた6地区)

湖北、江西10% 上海7.5% 西蔵12% 新彊11% 浙江8%

(引き上げた1地区)

広東8%→8.5%

なお見られる全国GDPと地方GDPの大きな乖離

その点でなお気がかりなのは、各地方の両会で発表された地方の2013年GDP実績を合計すると、まだ統計が出ていない3つの省を除いてもすでに58.94兆元で、国家統計局が発表している全国GDP56.88兆を約2兆元上回っていることだ。未発表の3つの省を加えると、GDP総計が60兆元を超えることは確実で、全国統計との乖離約4兆元は、ちょうど福建省と安徽省のGDP合計に相当する規模となる。

成長率で見ても、北京、上海が全国と同じ7.7%の実績である他は、ほとんどが全国の成長率を上回っている。こうした傾向は1985年以降一貫して見られており、昨年も例外ではなかったということになる。技術的な要因として、各地方の使用データと全国ベースのデータが異なる場合があること、地域をまたがる経済活動が増加しており、これが関係する省市区で重複に計上されていることが指摘されている。しかし国家統計局は「‘注水’すなわち水増しの可能性は、客観的に存在する」として、地方政府が企業と結託して、あるいは単独で虚偽の数値を作成している場合があることも認めている(1月29日付経済参考報、22日付環球時報)。もし企業が同意しなければ、地方政府が統計数値を水増しすることは一般的には難しいが、一部地方政府はかってに企業の数値を書き換えていることもある(昨年6月広東中山市の例)。上記重複計上も結局、地方がGDPの数値を偏重し、どの地方も少しでも関係する企業の数値を失いたくないために生じている面が大きい。ある地方幹部は「評価基準としてのGDPの重要性が弱まっているとはいえ、なくなったわけではない。地方政府報告の最初にはGDPの数値が来る。また地方のGDPのランキングもあり、GDPがなお重視されていることに変わりはない」としている(上記環球時報)。こうした状況下、地方GDPは廃止すべきだとの極論まで見られている(全国全人代財経委副主任、各地方のGDPも中央で作成・発表すべきということなのか、そもそも地域別統計をなくすべきとの主張なのかは不明)。

国家統計局は①企業から直接データ報告させる、②他のマクロ統計で整合性をチェックする、③虚偽報告の取り締まりを強化するという3つの方面からの取り組みを進めている。統計局としては正しい政策方向だが、問題の根源には、やはり地方政府の成長志向意識があり、統計局のこうした取り組みだけで完全に問題を解決することは難しい。

地方GDPのランキングへの関心

今のところ唯一成長目標を引き上げている広東省は、昨年実績が目標の8%を上回る8.5%で、省幹部は「外部環境の好転が期待でき、また粤東西北地域の開発投資需要が旺盛で、昨年程度の成長速度を維持できる」としているが、同時に「貿易の成長への寄与度が下がっていること(輸出伸び目標5%→1%)、江蘇省とのGDP規模の差が縮まりつつあること(江蘇GDPの対広東GDP比は2009年86%→2012年95%)等を考えると、広東省がGDP第1位の地位を維持することについて楽観はできない」としている(1月17日付第一財経日報)。

各省市区の経済規模に対しては、地方政府自身のみならず中国メディアの関心もなお強い。最大規模の広東省については、1998年にシンガポール、2003年に香港、2007年に台湾を抜き、昨年初めて地方では唯一6兆元(約1兆ドル)を突破し(6.23兆元)、本年はGDP世界15位の韓国を抜く見込みであることが、中国内で注目されている(1月16日付第一財経日報)。しかしもちろん、広東省の人口は韓国の2倍以上あり、産業構造や所得格差・地域格差の面(高所得のデルタ地域に対し、東西北部の平均所得は全国平均をも下回る水準)等で、広東省経済がまだまだ韓国に及ばないことは明らかだ。地方のGDPランキングについては、昨年福建省が2兆元を突破したことが注目され、12の省市が経済規模2兆元を超える‘両万億倶楽部’に入ったと称されている。現在、GDPが5兆元台は江蘇、山東、4兆元台はなく、3兆元台が浙江、河南、2兆元台が河北、遼寧、四川、湖北、湖南、上海、福建で、6兆元台の広東を入れて12となっている。

新型都市化への取組み

中国各メディアは、上述の成長率目標引き下げ(‘調降GDP’、または‘下調GDP’)と並んで、本年地方両会の‘三大熱詞’として、新型都市化(‘新型城鎮化’)とスモッグ抑制管理(‘霧霾治理’)を挙げる。‘霧霾治理’は、言うまでもなく、PM2.5の深刻化が直接の契機となっている。とりわけ環境汚染の激しい河北省では、その省政府報告の中で、かなりの部分を割いて環境問題に言及している他、浙江省は「最も厳格な環境保護措置を実行する」とし、甘粛、陝西、江蘇、福建等、ほとんどの地方で環境への言及がある。これらは、地方の環境問題への意識の高まりを示すものとして、一応率直に評価はすべきものだろう。

単なる物的インフラ投資による都市再開発ではなく、もっとヒトを重視した質の高い都市化を目指すという‘新型城鎮化’の考え方は、昨年来、中央レベルで盛んに強調され、策定がずれ込んでいる新型都市化計画についても、昨年末の経済工作会議で、改めて計画を制定し実行していくことが必要で、その際、地方が実行の主体になることが確認されたようである。地方両会では、例えば河北省は、‘摊大饼’(丸いケーキを中心から単純に引き伸ばしていくような無計画な都市化)でなく、北京、天津を中核、石家庄、唐山を郊外区域の中心とする等、各都市が機能を分担し特色を持つような、より重層的で合理的な設計を目指すとしている。また広東省では、省内のいくつかの市や県を新型都市化の試験区に指定する他、資金調達面では、市債の発行や政策金融の活用を検討するとしている。甘粛省は、都市化にとどまらず、シルクロード経済ベルト(‘絲綢之路経済帯’)構想(※1)を開発の最重要政策に位置付け、寧夏も自治区内の内陸拠点を整備し、銀川総合保税区の機能を強化することによって、シルクロード経済ベルトの戦略拠点として、中東アラブ地域との協力を進める上での中継的役割を果たすようにしていくといった構想を打ち出している点が特徴的だ(1月20日付経済参考報)。

総じて地方両会からは、地方政府の政策方針や重点が変化する兆しは見られるものの、今後真の意味での意識の変革、実際の行動につながっていくかは、なお時間をかけて慎重に見る必要がある。

(※1)元来は、昨年9月、習近平国家主席がカザフスタンを訪問した際に提唱した戦略構想。中国がシルクロードの起点で、カザフスタンがその重要な沿線国であることを踏まえ、政策面、道路等インフラ面、貿易面、金融面、および文化交流(民心)面の5つの分野での協力強化を通じて、シルクロード経済ベルトを共同で構築しようというもの(1月7日付人民網)。

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