外国人旅行者数1,000万人突破に見る観光政策と外交政策
2014年01月16日
2013年12月25日、日本政府観光局は、訪日外国人旅行者数が初めて年間1,000万人を突破したと発表した(2013年年初~12月20日までの累計)。日本政府がビジット・ジャパン・キャンペーンを開始した2003年の訪日外国人旅行者数は521万人に過ぎなかったことを考えると、10年間でほぼ倍増させることに成功している。10年間に行ってきた様々な施策が実を結んだということなのだろう。
さて、外国人旅行者の情報を収集するべく、日本政府観光局のウェブサイトを覗いたところ、非常に興味深いことに気が付いた。ウェブサイトを表示する言語を変更すると、表示される情報も異なるのだ。
緯度が低く、降雪がめったにないタイ向けのウェブサイトでは、トップページに雪だるまの写真が掲載されている。一方で、台湾向けのウェブサイトを覗くと、2014年2月から台湾で放送が予定されているNHK大河ドラマ「八重の桜」のロケ地特集が真っ先に表示されるなど、各国、地域のニーズを捉えた情報提供がなされている。ここもとの外国人旅行客数の増加は、円安の効果が大きいと考えていたが、政府のPR活動の効果も大きいことを感じさせる発見であった。
図表に示したのは、訪日外国人旅行者数のうち、ランキング上位を占める国、地域ごとの外国人旅行者数の推移である。台湾からの旅行者数は、2011年以降増加が続いている。ビザ要件の緩和なども影響して、ASEANからの訪日も増加しており、これらの国、地域からの観光客数は、政府の政策によって増加に成功した例といえるだろう。
ただし、足下の外国人旅行者数の推移を国別に見ると、政府観光局の努力以上に、外交政策の結果が旅行客数に大きく影響している。
韓国からの旅行者数は2013年半ば以降急激に減少している。韓国国内では、日本の福島第一原発の汚染水や放射能を懸念する向きが多く、政治的な対立も深まっていることから、訪日に消極的になっているようだ。
政治的な対立による旅行者数の減少は、中国からの旅行者数にも見られる。2012年夏の尖閣諸島国有化以降、旅行者数が急激に減少したのである。その後、政治的対立に急激な改善は見られないものの、足下では旅行者数はそれ以前の水準まで回復している。
韓国、中国からの旅行者数が、順調に増加を続けていれば、訪日外国人旅行者数1,000万人突破は、12月20日という年末ぎりぎりの時期ではなく、1ヶ月程度早く達成できたかもしれない。政府の外交戦略は、観光戦略以上に旅行客数に影響を与えているのである。
2020年の東京オリンピックに向けて、日本が観光立国を目指すのであれば、外交政策の影響による観光客数の減少は望ましいものではない。外交政策上、政治的な対立は起こりうるのかもしれないが、民間の経済活動に影響を及ぼさないよう、細心の注意を払った行動を期待したい。

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