CVI(Case、Visual、Incentive)でコンプライアンス意識向上を図る

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2014年01月15日

  • 大村 岳雄

コンプライアンスの重要性が問われて久しいものの、企業不祥事のニュースは絶えない。

昨年も、ホテルや飲食店での食品偽装や鉄道事業者でのデータ改ざん、宅配事業者における温度管理等、さまざまな不祥事が明るみにでたのは記憶に新しい。

企業活動において、多くのステークホルダー(利害関係者)の期待に応えるためには、基本のルールを守ることは第一条件である。特に、事業活動に関る法令順守は、企業が社会的責任を果たす上で当然のことである。しかし、一口に法令と言っても、企業活動が拡大しIT化が進展した昨今では企業が順守すべき法令は多様化している。

●多岐にわたる法令

例えば、経営レベル・組織レベル・業種レベルにおける法令を俯瞰しただけでも下表のように多岐にわたる。

表1.多岐にわたる法令

一般従業員は、法令順守が大事であると頭で理解していても法令順守は企業として対応すべきことなので、実際には総務部・法務部・コンプライアンス部・監査部といった組織が責任をもって担当すればよい、そして何かあった場合の対応と責任はこれらの部門もしくは経営者が取ればよいという認識になりがちである。しかし、今や法令順守は、誰かがやってくれることではなく、自分自身も意識すべきことであり、他社の失敗事例も他人事として見過ごしてはいられないのである。

これまで、企業は企業行動規範や企業倫理規程の策定、既にこれら規範・規程がある企業はそれらを見直したり、これらをカード化したり解説するハンドブックを作成して全役職員に配布したり、あるいは新入社員研修・新任管理職研修など定期的な集合研修、WEB を活用したEラーニング研修など、様々な施策を講じてきている。しかし、残念ながら企業不祥事が無くなるような、これで完璧というコンプライアンス対策は無いのである。

それでは、法令順守を徹底させるためにどのような点に留意して、コンプライアンス教育や研修を行えばよいのだろうか。

●CVI (Case, Visual, Incentive)で意識向上を図る

筆者がさまざまな業種のリスク管理担当者やコンプライアンス担当者へのアンケート調査やインタビューを通じて学んだ法令順守を徹底するためのキーポイントは、ケース(Case)・ビジュアル(Visual)・インセンティブ(Incentive)の3 つである。

表2.コンプライアンス意識向上のためのキーポイント

まず、ケース(Case)であるが、具体的な法令違反の他社事例(=ケース)や他社でのコンプライアンス改善のための成功事例を扱うことである。コンプライアンス研修というと、一般的な法令の解説や制度導入などの影響など概要説明に終始するような場合も多く、参加者の理解度や満足度が低い結果に終わる傾向がある。そこで、より具体的なケースや事例を扱うことで、研修内容が参加者に理解しやすいようにするのである。また研修の講師についても、リスク管理部やコンプライアンス部、監査部などの担当者が担当するのが一般的であるが、たまには事故や法令違反に詳しい専門の外部講師をお願いすることで、より理解度は深まろう。

次に、ビジュアル(Visual)であるが、社内のコンプライアンス研修では法令の解説や失敗事例など文字を中心としたプレゼンテーションが一般的であるためどうしても印象に残りにくい。そこでお薦めしたいのが、新しい法令の具体的意義と想定される違反などを題材とした市販のコンプライアンスに関するビデオ教材を活用することである。つまり、ビジュアル研修を行うことである。個人情報保護やセクハラ・パワハラなど人によって理解度がバラつきやすいテーマ、もしくは制度の概要がわかりにくい内容については、ビデオ教材を使うことで理解が促進されやすいからである。そして、ただビデオを見るだけではなく、ビデオの視聴後に部署やチーム単位で簡単な意見交換会をしたり、感想メモを提出させても良いだろう。意見交換やメモの作成により印象に残ると共に、理解が深まるからである。また、社内報やイントラネット等で絵解きの事例集を配布する方策もある。

さらに、もう一点はインセンティブ(Incentive)である。コンプライアンスやリスク管理などの取り組みは一般従業員にとって直接的な営業成績や業績評価につながらないため優先度が低くなりがちである。そこで、コンプライアンスやリスク管理への取り組み対して、評価する仕組みを作るのである。例えば、人事考課の評価項目にコンプライアンスへの取り組みについての項目を加えるとか、事務ミスやシステムトラブルなどを計測しておき、どの程度削減したかで表彰制度を創設するなどコンプライアンス活動に取り組むことへのインセンティブを与えるのである。

これらの施策を既に行っている企業も多いと思われるが、今一度、CVI (Case、Visual、 Incentive)の視点で自社のコンプライアンス教育・研修を見直し、地道に現場の啓蒙活動を積み重ねていくことで、役職員のコンプライアンス意識向上が図れるのではないだろうか。

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