役人には無理な仕事

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2010年04月01日

  • 原田 泰
新政権で国民に間違いなく評価されたことの一つが予算の事業仕分けであったことから、今度は独立行政法人の仕分けをすることが決まった。予算の仕分けでは様々なことが問題になったが、事業を説明する役人に情熱がないことが、あまり話題にならなかったのは残念だ。

明治以来、あるいは太平洋戦争での敗戦以来、日本の役人たちのしてきたことは分かりやすかった。明治のスローガンは富国強兵であり、戦後のスローガンは高度成長だ。国を富まし、強い軍隊を作るためにどうすればよいか、当時の列強、先進国を見ながら、必死に考えた。戦後は、敗戦からの復興と先進国に追いつくことを必死に考えた。もちろん、役人だけでなく、国民すべてが考えた。どちらの時代も、考える方向が分かりやすかった。通常の能力と勤勉さと誠意とがあれば、あまり間違えないでできそうなことだった。

ところが、豊かになって、やることが複雑になってくる。世界に負けない現代美術の殿堂を作る。中止になったがマンガの殿堂を作るという計画もあった。世界有数の研究大学院を地方に作る。世界をリードする舞台芸術の拠点を作る。オリンピックで金メダルを取るアスリートを育てる。ノーベル賞を取る学者を育てる。これらのことを、通常の能力と勤勉さと誠意の持ち主であればできるとは、私には到底思えない。

まず、これらのことをすべきかどうか。すべきとして国家がすべきかどうかという問題がある。私には判断がつかないが、国家がすべきとしよう。国家がすべきとして、役人にできるだろうか。役人とは、良くて、そこそこの能力と勤勉さと誠意の持ち主でしかない。ところが、これらのことをするためには、異常な能力とけた外れの勤勉さと目的達成のための強引さが必要だ。もし国家がするべきものなら、終身雇用の役人ではなく、政治が適任者を任命するしかない。役人の情熱のなさは、彼らには無理な仕事をしていることを示している。

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