今回の世界金融危機と大恐慌との類似点、相違点
2009年12月10日
類似点としては、本質的原因としての企業部門の資金余剰が挙げられる。資金余剰は、大恐慌期は米国の企業部門で顕著となり、この余剰資金が家計部門への過剰融資(住宅担保ローン、自動車ローン、証券担保ローン等)に繋がり、バブルが形成されていった。今回も構造は概ね同じであるが、今回は資金余剰が米国企業だけでなく世界的に拡大したことが違っている。2000年代に入り、世界の上場企業(約3万6千社)のフリーキャッシュフローは急拡大し、2006年、2007年には年間200兆円に達した。こうした余剰資金は金融市場に流れ込み、これが世界的な低金利、住宅バブルの素地を形成していったものと考えられる。
しかし、資本市場の場合、危機を未然に防ぐことが難しい。従来型の預金者発の危機であれば、預金保険制度によって危機が抑止されるが、資本市場の場合は、短期市場を含めたすべての市場にセーフティーネットを構築することは難しい。
従って、危機を防ぐには、バブルを抑止する相当前からの対応と、危機が発生した場合の迅速な流動性供給が必要となる。現在、事前対応として金融制度改革が進められており、事後対応としては、各国中央銀行の潤沢な流動性供給が続いている。今回の学習効果から、将来の危機に対して中央銀行の迅速な対応は可能であろうが、金融制度改革については制度面だけで十分かという不安もある。なぜなら、今回危機の本質が経済主体間の所得分配の歪みにあると考えられるため、所得分配の適正化が必要と思われるからである。
1930年に12%であった法人税は、1940年には24%に引き上げられ、50年代には50%となった。また1930年に24%だった所得税最高税率は1932年に63%になり、1936年には79%になり、1950年代半ばには91%となった。こうした再分配政策により所得格差は縮まり、1929年に54.4%であった上位20%高所得層の所得シェアは、1970年には41.6%まで低下した。この結果、多くの中間所得層が生み出され、大衆消費社会が到来し、“黄金の50年代、60年代”が実現されていった。
今後の改革も金融制度改革に加え、こうした所得分配構造の改革も必要ではないかと思われる。
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