「不遇」な証券税制

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2007年11月06日

  • 大和総研 顧問 岡野 進
税制改正について議論が高まる季節となってきた。証券税制についてはすでに金融庁から「平成20年度税制改正要望」が出ており、配当課税10%の恒久化や損益通算範囲の拡大が掲げられている。株式譲渡益の軽減税率適用も「貯蓄から投資への流れが定着するまでの、当分の間、継続」が要望として挙げられている。今後の議論に期待したいところだ。

マスメディアでは「証券優遇税制」と表現される株式の配当や譲渡益に対する軽減税率は本当に「優遇」なのだろうか?

そもそも個人の株式保有(配当、譲渡益)に係る税金は法人段階と個人段階の2重課税となっており、軽減税率10%の下でも法人税・法人事業税40%を合わせて、実質的な税率は46%となる。配当の税率が本則の20%に戻れば、52%に上昇してしまう。これでは、個人の所得税・住民税の最高限界税率が最大50%よりも高くなってしまう。また平均的サラリーマンの所得税・住民税の限界税率が30%であること比較しても著しく高く、多くの個人による株式保有を不利にしている税制となっている。利子に対する税率が20%であることと比較すると、現在の軽減税率の下でも税制は個人を預金等の固定利付き金融商品に留めておく働きをしていると評価すべきである。

日本において、こうした税制が伝統的に採られていたわけではない。1989年3月までは株式譲渡益は非課税であった。利子と配当の取り扱いは源泉分離や選択分離課税において、1965年以来、同じ税率で取り扱われてきたが、配当の2重課税を緩和するための配当控除は60年代後半には20%あった。個人の株式投資を支える税制であった時代もある。

配当税制は支払い段階でも変わってきた。1989年度までは「支払配当軽課制度」により、法人の所得のうち配当に充てられた所得に対する法人税については、内部留保された所得に適用される基本税率(42%)よりも10%軽減された税率(32%)が適用されていた。これは90年度における基本税率そのものの引き下げ(37.5%)により廃止されてしまった。支払配当部分についていえば増税が行われ、配当への2重課税は強化されてしまったのである。

超低金利時代であれば、金利そのものが低すぎるため、固定金利付き金融商品が株式等に比べて税制的に有利であるからといって個人の金融資産構成におけるリスク商品へのシフトには大きな障害にはならなかった。しかし、日本経済の正常化が進み、今後、預貯金金利もある程度正常化が進んでくると、税制的に有利不利という条件は機能し始め、個人の株式離れをいっそう促進してしまうことになりかねない。せめても株式「不遇」税制の緩和は続けてもらいたいものである。

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