買収防衛策に総会承認は必要なのか?

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2007年06月18日

  • 藤島 裕三
5月23日付の日本経済新聞によると、敵対的買収防衛策を導入する企業が上場企業の1割に達する見通しである。ほとんどは事前警告型ライツプランで、株主総会の承認を条件とするのがスタンダードとなっている。もっとも「平時の総会承認」が「有事の法的安定性」に直結するかについては、筆者は懐疑的に考えている。なぜならば、上場企業のコーポレートガバナンスは、少数株主の保護が目的であるべきだからである。

そもそも株主総会は多数決の原理に基づいており、支配株主が優位な構造となっている。特にわが国企業の場合、資本構成が株式持合や親子上場で歪んでいるケースが多く、少数株主の意思が反映されるとは到底いえない。そのような株主総会を通じて総論ベースで導入した防衛策を、実際に敵対的買収者が現れた各論の段階で司法が認めるかは、全くの別問題である。むしろ少数株主を守る「最後の砦」として、慎重な判断が求められよう。

本来ライツプランには、濫用的な買収者の排除と、正当な買収対価の導出という、二つの機能がある。しかしわが国の導入企業はほとんどが、後者の意義を認めていないのではないか。したがって、敵対的買収者を一律に濫用的と決め付け、法廷闘争まで持ち込まれる可能性は十分に考えられる。そのケースを想定するからこそ、総会承認で法的安定性を高める狙いなのかもしれないが、基本的なガバナンス観に問題がある気がしてならない。

少数株主を尊重する責務を果たすため、上場企業が第一に考えるべきことは、取締役会の独立性を高めることである。実際、独立取締役が過半数を占める米国においては、取締役会の決定による防衛策導入が定着している。わが国企業においてもガバナンスの本筋としては、独立性の高い社外取締役が判断するスキームがベストであり、株主総会に承認を求めるプロセスについては、あくまでも「次善の策」に過ぎないことを認識すべきである。

ガバナンスの趣旨に沿った例としては、エーザイのライツプランが挙げられよう。同社の取締役会は11人中7人が独立取締役で、少数株主の視点を取り入れる体制が整っている。この優れたガバナンスを背景に昨年、同社は取締役会の決議のみで買収防衛策を導入した。直後の株主総会における取締役選任議案においては、ほぼ満場の支持を得られた模様である。同社の株主は防衛策だけではなく、ガバナンス全般を高く評価したのではないか。

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