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資金フローと人民元

2006年01月26日

リサーチ業務部 主席研究員 小林 卓典

中国の貿易黒字が拡大している。昨年1000億ドルを突破した貿易黒字は、時に米国、EUとの貿易摩擦の火種となり、元切上げ圧力を高める。貿易黒字と投機的な短期資本流入から生じる元高圧力を中国の政策当局は市場介入で吸収している。その結果、昨年末の外貨準備は約8200億ドルに上った。これは日本の8470億ドルに次いで世界で2番目の大きさである。中国の外貨準備は主として米国の国債や政府機関債の購入に向かい、ドル相場と米国長期金利の安定化に無視し得ない影響を及ぼしている。

長期金利の低位安定に刺激されたのが米国の住宅不動産ブームである。住宅担保価値の上昇が個人消費を支え、個人貯蓄率がマイナスとなっても消費拡大が続く。結果、経常収支赤字が拡大するが、海外からの資金流入が滞りなく赤字をファイナンスする。その一角を占める重要な国が中国である。中国の貿易黒字拡大は人民元の切上げ期待を高めさせ、中国への資金流入を加速させる。人民元レートの維持のため中国の外貨準備は増加し、米国に資金が還流する。こうした資金フローが、今の米国にとってある種の景気安定化装置のように機能している。

一方、中国にとって巨額の貿易黒字は、貯蓄と投資の間に大きなアンバランスが生じていることを意味する。中国では家計部門で大幅な貯蓄超過が生じており、投資主導から消費主導の経済成長へ、いかに構造転換を図るかが中長期的な課題となっている。それを実現するには人民元の変動を許容し、輸入増加を図るのが理にかなっている。昨年7月、中国は人民元を2.1%切上げた上で管理変動相場制に移行した。ただ、その後の人民元相場は、元高・ドル安方向に動いたとはいえ、わずか0.5%程度しか変動していない。中国政府はあくまで人民元切上げの影響を見極めるのに慎重だ。

今年は米国の経常収支赤字の拡大を起点としたドル安が再燃するかもしれない。その際、人民元の一段の切上げが為替市場では大きな関心事となってこよう。ただ逆説的に言えば、人民元の切上げ期待が続く限り、中国から米国へ資金が還流するメカニズムは機能し、米国の赤字ファイナンスに問題が生じ難い構造となっている。仮に大幅な切上げが実行され、切上げ期待が消滅してしまえば、短期の投機資金は流出に転じる。これは中国の為替相場管理にとって好ましいことかもしれないが、米国経済の安定化にとってはどうなのか。事態は複雑だ。

※中部経済新聞 2006.1.21掲載

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