日米の所得収支が示唆すること
2005年11月24日
日本の所得収支が半期ベースで初めて貿易収支を上回った。2005年度上半期(4~9月)の貿易収支黒字が原油高の影響から前年同期比31%減の4.9兆円となったのに対し、所得収支黒字は同24%増の5.7兆円となった。アジアなどへの対外直接投資の拡大を背景に直接投資収益の受取が増え、また、対外証券投資の拡大に伴い利子収入など証券投資収益の受取が増えたことによる。 「国際収支発展段階説」によれば、一国の経済発展に伴い国際収支は以下に示す6つの段階を循環的に辿るとされている。
現在、日本は(4)の「未成熟債権国」であり、経常収支の黒字と資本収支の赤字が膨らみやすい状況にある。貿易・サービス収支の黒字がたとえ増えなくても、一方で所得収支の黒字が拡大することで、経常収支の黒字は高水準を維持しやすい。経済財政諮問会議の『日本21世紀ビジョン』(2005年4月)は、2030年には、貿易・サービス収支が赤字に転じる一方で東アジアからの直接投資収益が拡大し、日本は輸出立国から投資立国に変貌するとしている。つまり、(5)の「成熟債権国」となり、経常収支黒字の対GDP比が今より低下することになりそうだが、それはまだかなり先の話である。 一方、米国の所得収支は2005年4-6月期に▲4.5億ドル(季節調整済)となり、3年ぶりに赤字を記録した。民間部門の直接投資収益収支は対GDP比で1%前後の黒字を維持しているものの、財政赤字に伴う利払いで政府部門の所得収支赤字が拡大しているためだ。米国は上記(6)の「債権取り崩し国」にあたるが、経常赤字を背景に対外純債務が積み上がっていけば、所得収支が恒常的に赤字化し、(1)の「未成熟債務国」の国際収支パターンとなる。それは、もし貿易・サービス収支の赤字が減らないと、経常収支赤字がさらに膨らんでしまい、赤字発散の危機につながりかねないことを意味する。 準備通貨のドルを発行している米国だからといって無尽蔵に対外赤字を増やせるわけではなかろう。米国は昨年来、利上げにより実質金利を引き上げてきた。今後、貯蓄率の上昇と投資率の低下により、経常収支赤字が縮小に向かう可能性はある。ただし、米国景気の悪化を伴うリスクもあり、“持続性のある経常赤字縮小”となるかは不透明である。日米の所得収支にみる対照的な動きは、国際収支の不均衡拡大を示唆する注目点と言えるだろう。 |
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