M&Aの真の動機は「社会(学)的要因」
2005年05月10日
ライブドアによるニッポン放送買収の件をきっかけに、日本でもM&A論議が一般化してきた。米国では買収・統合が以前から盛んに行われているが、M&Aの約7割は失敗に終わっているという調査結果もあるようだ。
M&Aの真の動機は、「経済合理性」によるものなのであろうか?私には、そうは思えない部分がある。むしろ、会社の業界内での地位・プレゼンスの維持・向上や、経営者の自己実現など、「社会(学)的要因」の方が強く作用するのではないかと考えている。
それが証拠に、ある業界で大手企業のM&Aがおこると、その後、同業他社の間でも、一斉に統合・再編の流れが加速する。メガバンクなどがいい例であろう。
当初、メガバンクは各行とも「再編には統合メリットが見出せないので、統合するつもりはない」と主張していた。ところが、富士銀行・第一勧業銀行・日本興行銀行の3行による「みずほ」の誕生で状況は一変した。これが、住友銀行・さくら銀行による「三井住友」や、三和銀行・東海銀行による「UFJ」や、大和銀行・あさひ銀行による「りそな」などの誘因となったのは明らかであろう。
「経済合理性」にもともと気付いていたが躊躇していただけなのか、それとも「経済合理性」は後付けの論理でとりあえずライバルにつき動かされただけなのか、はわからない。しかし、少なくとも「社会(学)的要因」が強く背中を押したことだけは明確なのではないだろうか。
会社といえども、経営しているのは人間である。ライバルに負けたくない、業界内の序列を維持したい、存在感のある会社にしたい、という心理は、多分、世界共通のものだろう。同業他社が統合により大きくなった時に、平然としていられる経営者はむしろ少数派である。
私は、職務上さまざまな経営者の方と接する機会が多いが、「経済合理性がないから再編はない」という経営トップの言葉を、個人的に信じないことにしている。
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