金融機関も無縁ではない「国際私法の現代化」

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2005年04月27日

  • 中田 綾

平成17年3月29日、法務省より「国際私法の現代化に関する要綱中間試案(以下「試案」)」が公表された。国際私法とは、複数の国が関係する渉外的な私法的な法律問題を規律する法をいう。試案は現行法例を全面改正する内容となっている。

現行法例では、法律行為の成立及び効力について適用される法は、(1)当事者が選択した国の法、(2)その意思が明確でない場合には行為地法による、とされている。試案では、(1)は原則維持、(2)の場合は最も密接に関係する地(以下「最密接関係地」)の法律を準拠法とするよう見直され、「給付を行う者の常居所地」を最密接関係地と推定する旨が定められている。しかし、この内容については以前から「デリバティブ取引や消費貸借取引の契約が混在し・・・資金の供給側か需要側に立つかによって当事者の立場が変わる」ような場合に、最密接関係地を特定できるのかという問題が指摘されていた。金融機関は、契約の際に予め準拠法を選択しておくことも必要となろう。

次に、不法行為や不当利得については、現行法例と同様に「不法行為地」の法が適用される。不法行為地の法として、(1)侵害の結果が発生した地の法、または(2)原則は侵害の結果が発生した地の法であるが、加害者が予見可能でなければ加害行為がされた地の法、とする二つの見解が提案されている。裁判地が日本であっても適用される国の法が異なってくる可能性もある。しかし、より密接な関係を有する地域の法や、当事者が準拠法として選択した法が優先適用される例外規定が設けられる予定であるため、適用される法が状況に応じて異なる可能性もある。

最後に、物権に関する準拠法であるが、現行法例と同様に「目的物の所在地法」によるとされている。ただし、試案では「目的物の所在地法より明らかに密接な関係を有する地の法律がある場合には、その地の法律による」例外規定が設けられている。なお、ペーパーレス化された有価証券については、このコラムでも以前に取り上げた「口座管理機関によって保有される証券についての権利の準拠法に関する条約」が批准されれば、同条約(に基づく国内法)が適用される。

国際私法は国際的に統一される傾向にあり、試案もその動きに対応したもので
ある。法例は日本に裁判管轄権がある場合に適用される法ではあるが、商法や証取法のように法例を理解しておくことは、国際取引におけるリスク管理の観点からも決して無駄なことではないはずだ。

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