民営化企業のコーポレート・ブランド戦略

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2004年05月14日

  • 平井 小百合
コーポレート・ブランド戦略とは、商品やサービスのみならず“総体的な企業活動そのもの”を認知してもらうことを目指す、究極の差別化戦略である。競争市場において商品・サービスの差別化が困難となる中、一般企業にとってブランド戦略はますます重要となってきた。だが、多様なステークホルダーをもちながらも、これまで自主的な経営や独自性が発揮されてこなかった“民営化された、またはされつつある特殊法人”こそ採るべき戦略であろう。特に空港や高速道路などは、社会的責任が大きい事業であるが、人々にとっては通過するだけの存在であり、その“運営主体”は十分に認知されてこなかった。これまでのような公的な設置管理者としてはそれでよかったのかもしれない。しかし、自立経営する一企業として、他の空港や他輸送モードとの競争を受けながらも公益事業を営み続けるには、企業としての存在意義や将来あるべき姿(ビジョン)を従業員、利用者、地域住民、株主(国、地方自治体)等のステークホルダーに対し訴求するとともに、これらステークホルダーのニーズや意見を汲み上げ、企業活動に反映させていくことが、一般の民間企業よりも強く求められるところである。

ブランド戦略は、外部向けコミュニケーション活動(広報、IR活動)、内部向けコミュニケーション活動(従業員の意識改革)と事業展開の三位一体で推進することが肝要である。経営理念を基盤に、これまで提供してきた「安全性」や「信頼性」という価値に加え、今後どのような価値を提供していきたいか、についてブランドコンセプトを明確にする。その上で、企業活動を通して、従業員は自社に対する誇りを持ち、利用者はリピーターとなり、国や地方自治体からは信頼を勝ち取り、地域住民は良きパートナーとなり、(上場されれば)株主は長期投資家となる、というように、其々のステークホルダーが価値あるものとして共有できるブランドの構築を目指す。そして、その起点は従業員の意識改革、つまり官業意識の排除とCSマインドの醸成にある。従業員が自社の目指すブランド・イメージをしっかりと認識し、日々業務の中で具現化していくことにより、利用者が “広報活動のイメージどおりだった。また利用したい”と満足する時、地域住民が“この地域に所在してくれて良かった”と思う時が、ブランドが構築される瞬間なのである。特に、成田国際空港株式会社や道路四公団においては、料金の低下圧力の中、コスト削減や経営の効率化が民営化の課題とされ、単なる数値目標だけが先行しやすい。従業員が夢をもって業務にあたり、グループの一体感を醸成するためにも、自分達が創りあげるブランド・イメージの共有が必要であろう。JR東日本が「信頼される生活サービス創造グループ」と謳い、鉄道事業を軸とした総合生活産業を事業領域とするように、また、JTが「かけがえのないディライトを提供するブランディングカンパニー」と宣言し、マイナスイメージの強い煙草事業者からの脱却を図ったように、成田空港や道路四公団も、基幹事業を起点にあらゆる事業の可能性を追求し、「成田空港(NAA)らしさ」、「○○高速道路会社らしさ」という強いブランドを確立されることを期待する。

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